獣医師による手作り食・自然療法ガイド

糖尿病のハーブ療法

自然療法をはじめる前に

糖尿病の治療に使われるハーブや漢方薬の多くはインスリンに対する抵抗性を改善することで効果を示します。

そのため、ほとんどの患者でインスリン投与量を減らす必要性が出てきます

自然療法を始める際は、必ずかかりつけの獣医師に伝え、必要な検査とインスリン投与量の確認を行いながら取り入れていきましょう。自己判断でのインスリン投与量の調節は危険です。

インスリン抵抗性は、自分が作るインスリンや注射で投与するインスリンへの体の反応が鈍くなってしまう状態です。いわゆる「メタボリック・シンドローム」の基本病態。猫に多い2型糖尿病の直接の原因であり、犬に多い1型糖尿病でも必ずといっていいほどインスリン抵抗性を起こしています。

インスリン抵抗性を改善すると、少量のインスリンで血糖値を維持できるようになります。現代獣医療では対策が遅れている分野ですが、食事療法と体重管理、そして漢方薬が特に大きな力を発揮します。

インスリン抵抗性は、糖尿病の発症だけでなく、インスリンによる治療成績を左右し、ケトアシドーシスなどの重篤な合併症を起こしやすくすることもわかっています。愛犬・愛猫が症状なく幸せに長く暮らしていけるようインスリン療法、食事療法、自然療法を上手に組み合わせていきましょう。

漢方薬

人の漢方医学では、糖尿病は陰虚(体液不足)を主体とし、虚熱の進行により気血水が枯渇していく消耗性疾患「消渇」と診断されることが多いようです。そのため補陰剤がよく使われますが、犬猫で補陰剤が効果を示すのは、糖尿病がかなり進行するまで気づかなかった猫や慢性腎不全が併発しているような場合。多くは、湿熱(細胞レベルの炎症・インスリン抵抗性)が根底にあるため、湿熱を取り去る漢方薬がよく効きます。

ここに掲載した漢方薬は、犬でも猫でも体質が合えば、長期間安全に使用することができます。しばらく使用して、体質が変わったかな?と思ったら、合うものに切り替えて維持しましょう。

三仁湯(さんにんとう)

猫の糖尿病の第一選択肢。どれにしようか迷ったらまずこれを。特に診断されたばかりの場合は、インスリン注射なし、三仁湯と食事療法だけで、血糖値を十分にコントロールできることもよくあります。当てはまる項目があれば、犬でも使用できます。

作用機序
  • インスリン抵抗性をすみやかに改善。1週間以内に効果が現れます。
  • メタボにつきものの全身炎症を緩和
こんな子に向いています
  • 今までずっとペットフードを食べていた
  • どちらかというと暑がり
  • 太っている・太りやすい
  • いびきや逆くしゃみ、目やにが気になる
  • 外耳炎、関節炎、膀胱炎、下部尿路疾患、皮膚炎、結膜炎など、○○炎という名前の病気の既往があり、再発しやすい
  • 口臭、オナラの臭いが気になる
  • 猫喘息といわれたことがある
  • 最近怒りっぽい
  • 舌の色が赤く、濡れている、腫れぼったい

この漢方薬に良好な反応を示し、インスリンが不要になった子は、やがては食事療法だけで維持できるようになります。

四妙散(しみょうさん)

三仁湯ととてもよく似ていますが、炎症を抑える効果が高く、特に膵炎を併発している場合や炎症性疾患が併発している子におすすめです。

作用機序
  • インスリン抵抗性をすみやかに改善。
  • メタボにつきものの全身炎症を緩和
  • 膵臓の炎症を鎮める
こんな子に向いています
  • 暑がり
  • 太っている
  • いびきや逆くしゃみ、目やに、肛門嚢の詰まりが気になる
  • 膵炎肝炎、外耳炎、関節炎、膀胱炎、下部尿路疾患、皮膚炎、結膜炎、腸炎など、複数の炎症が併発
  • 口臭、オナラの臭いが気になる
  • イライラ、落ち着きのなさが目立つ
  • 舌の色が赤く、濡れている、腫れぼったい
  • 食欲・口渇が非常に激しい

まれですが、犬に多い1型糖尿病でインスリン抵抗性が併発していない場合は、血糖値が逆に上がることがあります(肝臓の機能をサポートすることにより、糖産生が増えるため)。その場合は、八味地黄丸や六君子湯などがおすすめです。

胃苓湯(いれいとう)または五苓湯(ごれいとう)

三仁湯、四妙散ほどインスリン抵抗性や炎症を緩和する作用は強くありませんが、血糖値を下げる効果があり、冷えや胃腸症状が気になる子に向いています。

作用機序
  • インスリン抵抗性を緩和(軽度)
  • 血糖値を下げる
  • 体を温めて代謝を促進
こんな子に向いています
  • 寒がり、冷えが気になる、寒がりと暑がりが交互に現れる
  • 水太りタイプ
  • いびきや逆くしゃみ、目やにが気になる
  • 疲れやすい
  • 軟便・下痢になりやすい
  • 便や嘔吐物に未消化物が入っていることがある
  • 多食と多飲のどちらか一方しか見られない
  • 舌が薄いピンク色で湿っている

参苓白朮散(じんりょうびゃくじゅつさん)

血糖値降下作用があります。胃腸の弱りが進み、痩せて元気がなくなってきた子に。

作用機序
  • 血糖値を下げる
  • 体と胃腸を温めて代謝を促進
こんな子に向いています
  • 寒がり、冷えが気になる
  • 体重が減ってきた
  • 疲れやすい、手足に力が入らない
  • 下痢しやすい
  • 水をよく飲むが、食欲はない
  • 舌の色が薄く、湿っている

インスリンを投与しているのに血糖値のコントロールがうまくいかず、体重と筋肉がかなり落ち、悪液質に陥っていってしまった場合は、滋養効果の高い六君子湯がおすすめです。

小柴胡湯(しょうさいことう)

膵炎や肝炎を併発している糖尿病や自己免疫性が疑われる1型糖尿病に。炎症がおさまってきたら、その時に現れてきた症状に合わせて別の漢方薬に切り替えましょう。

作用機序
  • 免疫を正常化
  • 膵臓、肝臓の炎症を鎮める
  • 高脂血症を抑制
こんな子に向いています
  • 落ち着きがない、抱っこされたがらない
  • 暑くないのにパンティングをしていることがある
  • 水をよく飲むが、食欲はない
  • 寒がりと暑がりが交互に現れる
  • 腹部が張っている
小柴胡湯

知柏地黄丸(ちばくじおうがん)

猫の糖尿病で、コントロールがうまくいかず、神経症状が現れた場合に。インスリン、食事療法と併用すると2〜3週間で神経症状の緩和が見られるようになります。

作用機序
  • 脂質と血糖値を下げる
  • インスリン抵抗性を改善(軽度)
こんな子に向いています
  • 後ろ足に力が入らない、かかとをつけて歩く(蹠行姿勢)
  • 食べても食べても痩せていく
  • 暑がりで水をよく飲む

以上の症状が目立たなくなったら、三仁湯(上記)に切り替えましょう。

漢方薬の用量用法はこちらから
用量・用法・上手な飲ませかた漢方薬やハーブを使用する前の注意事項

シングルハーブ

  • ギムネマ:血糖値を下げる効果があります。犬では、膵臓β細胞の再生とインスリン産生を助ける効果が報告されています。体重 1 kg あたり50 mg・1日1〜3回を目安に。
  • コーンシルク(とうもろこしのヒゲ) :インスリン抵抗性を緩和。体重 1 kg あたり50〜500 mg を1日2〜3回に分けて。
捨てないで活用!トウモロコシのヒゲ
  • コルディセプス(冬虫夏草):1型糖尿病の初期のインスリン治療の効果を高めてくれます。体重 1 kg あたり菌糸体粉末として25〜75 mg・1日1〜2回を目安に。
  • フェヌグリーク:血糖値を下げる効果があります。体重1 kg あたり50〜500 mg・1日3回を目安に。
  • ビルベリー:血糖値を下げてくれます。眼の血行促進・抗酸化効果があるため、犬の白内障や網膜症の予防に使用されています。体重 1 kg あたり50〜200 mg・1日3回を目安に。
  • ローズマリーとバジル:犬で血糖値を下げる効果が報告されています。粉末ハーブの場合は、食事 100 g あたり25〜50 mgずつを目安に。生ハーブの場合は、1食あたり小さじ1/4〜1杯を目安に。刻んだものをひとつまみ程度ですね。
MEMO
漢方薬を飲んでいる場合は、併用する必要はありません。

リキッドハーブ(エキス剤)を使用した組み合わせをご紹介します。

コーンシルク30 mL血糖値抑制・脂質コントロール
ビルベリー30 mL抗酸化・網膜保護・血管保護
ギムネマ40 mL血糖値抑制・膵臓保護
体重 5 kg あたり0.5 mLを1日3回
ビルベリー10 mL抗酸化・網膜保護・血管保護
ギムネマ20 mL血糖値抑制・膵臓保護
ダンデライオン10 mL胆汁(コレステロール)の流れを助ける
レーマニア(地黄)10 mL血糖値抑制・腎保護・アダプトジェン
体重 5 kg あたり1 mLを1日2回

ホメオパシー

  • スーヤ(ニオイヒバ)30C:診断された時点で1回のみ使用。与える前と与えた後、30分は食事を与えないこと。1ヶ月ほど効果を待ち、改善がなければ別のレメディを選びましょう。
  • ネイチュミュア(ナット・ムール)6C:食欲旺盛なのに体重が減る、尿糖が出ている、暑がりな場合。もともと怖がりで不安症がある子に。1日2回(12時間おき)・1週間を目安に。与える前と与えた後、5〜10分は食事を与えないこと。
  • フォスフォラス6C:もともと痩せ気味の子に。1日2回(12時間おき)・1週間を目安に。与える前と与えた後、5〜10分は食事を与えないこと。
  • フォスフォリックアシダム6C:どれも効果がなかったときの最後の手段。1日1回・1週間を目安に。手応えを感じたら、3〜4日おきまたは必要に応じてリピート。与える前と与えた後、5〜10分は食事を与えないこと。
MEMO
漢方薬・ハーブを飲んでいる場合は、併用する必要はありません。

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