獣医師による手作り食・自然療法ガイド

糖尿病の食事療法・サプリメント

食事管理は糖尿病の治療に大きな役割を果たしています。

特に猫ちゃんでは、猫本来の生態にあった手作り食に切り替えるだけで治ることがよくあります。

犬の場合は、膵臓のβ細胞がどれだけ残っているかに左右されますが、体重を適切に維持し、血糖値の変動を抑えることにより、インスリン治療の効果を安定させることができます。

私たちのところへやってくる糖尿病のわんちゃん、猫ちゃんはみんな手作り生食に切り替えてもらっています。不必要な物が入っていない食事で体の負担を取り去り、血糖値の安定化とインスリンへの感受性を改善することで、多くの子が病気の進行や合併症を起こさずに安定した毎日を過ごしています。糖尿病と診断されてから何年経っていても遅すぎることはありません。できることをぜひ取り入れていってください。

手作り食ができること

血糖値の変動を起こさない

細かく粥状にして半分解された状態で加工調理されるペットフードとは異なり、手作り食はゆっくりと消化吸収されます。つまり、食後の血糖値の上昇がゆるやかになるため、インスリンの投与量やインスリンへの反応が安定しやすくなります。

MEMO
同じ手作り食でも、加熱食より生食の方が血糖値の上昇がゆるやかです。

残っている膵臓のβ細胞を保護

食事中の糖分が体の中に入ると、インスリンを作るよう膵臓のβ細胞に刺激が送られます。炭水化物食品をほとんど含まない手作り食は、これを最小限にすることでβ細胞の負担が軽くなります。正常なβ細胞が残っているほど、インスリン注射の量が減り、寛解するチャンスも高くなります。

体重を正常化

糖尿病の犬と猫は、肥満歴があることがほとんど。余分なものを使わない犬猫本来の食性にあった手作り食は、メタボを防ぎ、スリムな体型を維持することができます。体重が減ると、インスリン抵抗性も緩和されるため、治療への反応もよくなり、糖尿病の進行や合併症の発生を抑制することができます。

筋肉量を維持

糖尿病は、細胞が糖分を使えず飢えている状態。糖分は体の中に十分にあるのに、体は筋肉や臓器を分解してさらに糖分を作り出そうとしています。本物の肉や魚を中心とする手作り食できちんとたんぱく質を補い、筋肉や臓器の消費を防ぎましょう。適度な運動と合わせて、筋肉量を増やすと、インスリンに対する感受性が高まることもわかっています。

理想的な食事

炭水化物は不要

市販のペットフードのカロリーは、50%近くが炭水化物からきています。でも自然状態の犬猫ではこれがわずか2〜5%。大きな違いがあります。このように本来の犬猫の食性に合わない加工食品を食べさせ続けていることが、糖尿病をはじめとするメタボリックシンドロームの大きな原因です。

そもそもの原因を取り除き、体の負担を軽くしてあげましょう。食後に血糖値が急上昇することがなくなるため、投与するインスリン量も最低限で維持することができます。

炭水化物食品とは
  • 米、小麦(パン・パスタ)、そば、大麦、とうもろこし、あわ、ひえ、ソルガムなどの穀類
  • じゃがいも、さつまいも、かぼちゃなどのでんぷん質の多い野菜
  • 砂糖、ハチミツ、麦芽糖などの甘味料

犬の場合は、食事全体の3割程度までなら炭水化物を与えても大丈夫です。食物繊維が豊富でGI値が低い全粒穀物がいいでしょう。ただし、○○炎、と名前のつく病気が併発している場合や再発しやすい場合は、炭水化物ゼロがおすすめです。

炭水化物食品のGI値はこちらでチェック
グリセミック・インデックス(GI値)

脂質

糖尿病の犬猫は、脂質代謝にも異常をきたし、コレステロール値やトリグリセリド値が上昇していることがよくあります。糖が使えなくなる代わりに脂肪をエネルギー源として燃やすようになり、この過程で生じるのがケトン体。糖尿病で一番避けたいケトアシドーシスの原因です。

したがって、糖尿病の初期には、脂質量を抑えることがおすすめです。必須栄養素であるオメガ3脂肪酸DHAEPA)とオメガ6脂肪酸リノール酸)だけは必要量を与え、残りの脂肪はなるべく少なくしてあげましょう。

必須脂肪酸の必要量はこちらでチェック
犬と猫の栄養自動計算機犬と猫の栄養自動計算機オメガ3脂肪酸 (n-3)オメガ6脂肪酸 (n-6)

脂質量を抑えることは、糖尿病と併発していることが多いのに気づかれにくい膵炎の緩和にも効果があります。

例外として、糖尿病が進行して、体重の低下が目立つような場合は、カロリー減として脂質が役立つことがあります。

蛋白質

炭水化物と脂質を減らす代わりに、カロリーの大部分を低脂肪の肉・魚、卵、内臓肉で補う必要があります。たんぱく質は、筋肉や内臓の消耗を抑えることで悪液質を防ぎ、脂肪のようにケトン体を生じることもありません。

人では、糖尿病性腎障害を予防するために、たんぱく質制限を行うことがありますが、糖尿病性腎症は犬と猫ではほとんど起こりません。たんぱく質の制限が必要になるのは、末期の腎臓病または末期の肝臓病が併発している場合です(非常にまれ)。この場合は、GI値が低い炭水化物や脂質でカロリーを補います。

グリセミック・インデックス(GI値)

初期〜中期の腎臓病や肝臓病ではたんぱく質制限を行う必要はありません。

食物繊維

食物繊維は糖分や脂質の消化吸収速度を遅めることが示されています。手作り食では、炭水化物量や脂質量を制限するため、この意味では食物繊維を与える必要はありません。しかし、糖尿病では腸の善玉菌が減り、腸内環境が乱れていることがよくあります。糖分の少ない野菜や根菜を利用して水溶性繊維不溶性繊維プレバイオティクスの3種類の食物繊維を取り入れ、腸内の善玉菌を増やしましょう。

食物繊維 (プレバイオティクス)

野菜・果物

糖尿病では目に見えない小さな炎症や酸化が身体中で起こっています。抗炎症・抗酸化効果が高い新鮮な野菜や果物を取り入れましょう。色の濃い葉物野菜、アブラナ科野菜、糖分の少ないベリー類がおすすめ。犬は見た目で食事全体の3割、猫は1割程度を目安に。

ニガウリ(ゴーヤ)、ローズマリー、バジルは血糖値を下げる効果があります。

膵臓・膵臓抽出物

膵臓肉や膵臓抽出物には、膵臓で作られる酵素やホルモンが含まれています。特に膵炎後に糖尿病を発症した場合におすすめです。

作ってみよう

糖尿病の犬猫には、私たちのサイトで公開しているクイックスタートガイドで自動計算される食事内容がおすすめです。

手作り食クイックスタートガイド

必要な食事の量は、体重が同じでも品種や生活習慣、糖尿病の進行具合によって異なってきます。表示される量をスタート地点とし、体重を測りながら量を加減して、適正な体重を維持できる量を見つけましょう。

MEMO
現在の体重ではなく、理想体重を入力しましょう。

食事のタイミング

食事のタイミングはインスリン注射の種類や時間によって決まります。インスリンが作用している時間内に食事を与えることにより、低血糖(インスリンの効きすぎ)や高血糖(炭水化物が多い食事・インスリン不足)を防ぐことができます。

多くの場合は、今までの食事のタイミングと同じで大丈夫ですが、インスリンを処方してもらっているかかりつけの先生の指示に従いましょう。

食事を切り替える際の注意

診断後、まもない場合

糖尿病と診断されたばかりの場合は、症状とインスリン量が安定するまで病院で定期的な検査を行うため、安全に手作り食への切り替えを行うことができます。今までのペットフードから糖尿病管理用のペットフード(低炭水化物・高繊維)への変更を勧められるのもこの時期です。

食欲が異常に増えるのは糖尿病の特徴の一つ。好き嫌いの多い子でも問題なく食事を切り替えることができるでしょう。

診断後、時間が立っている場合

食事療法を始めると食事から吸収される糖分が少なくなり、インスリン抵抗性が改善してインスリン治療への反応がよくなるため、インスリンの投与量を減らす必要性がでてきます。

切り替えの際は、かかりつけの獣医師に報告し、定期的に血液検査やインスリン量の確認を行ってもらいましょう。1〜2週間ごとの検査がおすすめです。

食事内容を数週間かけてゆっくり切り替えていくと、血糖値の急な低下が起こりにくく、検査の間隔もあけることができます。好き嫌いのある子にもおすすめの方法です。

手作り食への切り替え方

サプリメント

まずは基本の栄養素をチェック

手作り食では、もともとビタミンB群、亜鉛が不足しがちですが、糖尿病の犬猫では、これらの栄養素の血中濃度が低下していることがあります。特に気をつけてあげましょう。

うちの犬猫に必要な栄養素の量をチェックする
犬と猫の栄養自動計算機犬と猫の栄養自動計算機

抗酸化・抗炎症成分

糖尿病では酸化ストレスが進み、体の抗酸化能が低下しています。食事またはサプリメントで抗酸化・抗炎症成分をしっかりと補給してあげましょう。

  • オメガ3脂肪酸DHAEPA:猫1頭あたりDHAEPAを合わせた量で100〜150 mg。犬体重5 kg あたりDHAEPAを合わせた量で150 mg。
  • ビタミンE:猫・小型犬 25 IU 中型犬 50 IU 大型犬 100 IU
  • α-リポ酸:猫1頭あたり25 mg未満。犬1頭あたり200 mg未満。猫では毒性が起こりやすいので注意しましょう。犬では糖尿病性白内障の予防に使われています。
オメガ3脂肪酸 (n-3)ビタミンEα-リポ酸

プロバイオティクス

糖尿病の猫では、腸内細菌のバランスが崩れ、善玉菌が少ないことがわかっています。犬と猫で効果が証明されており、複数種類の善玉菌が入ったプロバイオティクス製品を取り入れるようにしましょう。

プロバイオティクス (善玉菌)

クロム(クロミウム)

クロムは1950年代から「グルコース耐性因子」として知られる微量元素です。明らかな作用機序はいまだに不明ですが、ニコチン酸(ビタミンB3)とともにインスリンの作用を増強したり、糖を肝臓や脂肪組織、筋肉に運ぶなど、複数の役割を果たしていると考えられています。

ただし、クロムサプリメントが糖尿病を改善するかは犬でも猫でもはっきりと示されていません。また、サプリメントとしてよく使用されている無機クロム(3価)は、体内で酸化ストレスを起こしたり、発がん性のある6価クロムになることが示されています。そのため、私たちは、サプリメントではなく、ナチュラルな形でナチュラルな量のクロムが摂取できる食材やハーブをおすすめしています。

クロミウムが豊富な食材・ハーブ
  • ビール酵母:クロムだけでなく、ビタミンB群も補給できます。
  • 生骨:骨はクロムの貯蔵場所です。
  • 亜麻仁
  • ネトル
  • エンバク若葉:猫草に使われていることがあります。
  • ブロッコリーなど

生骨や内臓肉を取り入れた自然食では十分な量のクロムを補うことができます。

バナジウム

バナジウムもクロムと同じように血糖値を下げる効果があるといわれている微量元素ですが、効果が小さい割に消化器症状などの副作用が起こりやすいため、サプリメントでの摂取はおすすめしていません。バナジウムサプリメントを取り入れるよりも、血糖値を下げる効果のあるハーブを取り入れる方がずっと安全で、効果的です。

バナジウムが豊富な食材

肉類よりも魚介類の方がバナジウムが高い傾向があるので、毎日の食事にお魚も取り入れるようにしましょう。

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