獣医師による手作り食・自然療法ガイド

α-リポ酸

アルファリポさん・チオクト酸

体内で脂肪酸から合成される化合物で、主に補酵素として働き、ミトコンドリアによるエネルギーの生産を助けています。

サプリメントとしては、抗酸化成分として作用し、ミトコンドリアの機能を高めます。犬や猫では主に高齢期のアンチエイジング対策に使用。L-カルニチンと一緒に給与することで脳認知機能を改善することが犬で報告されていますが、低用量を長期にわたって給与することが効果の秘訣です。高用量の短期投与では効果がなく、毒性症状を起こすことがあります。糖尿病では白内障の発症を遅らせることが確認されています。

注意
猫は毒性が出やすいため、与えすぎないよう注意しましょう。

一般的な機能と役割

  • L-カルニチンと併用することで脳の老化を防ぎ、認知機能を改善
  • ミトコンドリアにおけるATP産生を助ける
  • 抗酸化作用(N-アセチルシステインとともにグルタチオンの産生を助ける)

どんなときに与えればいいの?

  • 高齢動物の健康管理に(活力維持)
  • 認知機能・記憶力の改善(ボケの防止)
  • 肥満の改善
  • 糖尿病性白内障の進行を遅らせる
  • 人の治験では糖尿病による神経症を改善することが示されています。

与える量の目安

  • 体重 1 kg あたり1日 1〜5 mg
  • 糖尿病性白内障の予防:1 kg あたり 2 mg
  • 認知機能の改善:α-リポ酸 3 mg/kg + L-カルニチン 6 mg/kg
  • 体重 1 kg あたり 50 mg 以上で毒性を示すことがある。

  • 体重 1 kg あたり1日 1〜3 mg
  • 消耗が激しい時や食欲がない時は与えない。
  • 特に肝機能障害・腎機能障害がある場合は気をつける。
  • 猫ではα-リポ酸の代謝排泄率が低く、体重 1 kg あたり 5 mg 以上で毒性を示すことがある。特に体の小さい猫に気をつける。
α-リポ酸を含む食品

少量ですが、赤肉・内臓肉・米ぬか・酵母・ほうれん草・ブロッコリー・芽キャベツ・ビーツ・山芋・人参などに含まれています。

エビデンス

認知機能の改善

実験的研究

Snigdha S, de Rivera C, Milgram NW, Cotman CW. Effect of mitochondrial cofactors and antioxidants supplementation on cognition in the aged canine. Neurobiol Aging. 2016 Jan;37:171-178.

 

6.8〜8歳のビーグル犬46頭をサプリメントなし、 α-リポ酸(3 mg/kg)+L-カルニチン(6 mg/kg)、 抗酸化成分(果物+野菜+ビタミンEビタミンC ②+③、 α-リポ酸(3 mg/kg)のみの5群に分け、36ヶ月間給与を行った。その結果、α-リポ酸とL+カルニチンを併用した場合に認知機能の改善が認められ、α-リポ酸のみを投与した場合は一部の機能に低下が認められた。ちなみに高用量の α-リポ酸(11 mg/kg)とL-カルニチン(27.5 mg)の短期併用(2.5ヶ月)では効果が認められていない [Christie et al 2009] ため、低用量での長期投与が重要と考えられる。

実験的研究

Head E, Murphey HL, Dowling AL, McCarty KL, Bethel SR, Nitz JA, Pleiss M, Vanrooyen J, Grossheim M, Smiley JR, Murphy MP, Beckett TL, Pagani D, Bresch F, Hendrix C. A combination cocktail improves spatial attention in a canine model of human aging and Alzheimer’s disease. J Alzheimers Dis. 2012;32(4):1029-42.

 

8〜9.5歳のビーグル犬9頭にターメリッククルクミノイド95%)、N-アセチルシステイン、緑茶エキス(エピガロカテキン 50%)、α-リポ酸 、 黒胡椒エキス(ピペリン95%)の混合物を3ヶ月間給与したところ、空間認知能力に改善が認められた。

治験

Heath SE, Barabas S, Craze PG. Nutritional supplementation in cases of canine cognitive dysfunction – A clinical trial. Appl Anim Behav Sci. 105:274-283 2007 .

 

認知障害の犬20頭を対象とした二重盲検試験。DHAEPAビタミンC、N-アセチルシステイン、L-カルニチン、α-リポ酸、ビタミンECoQ10、フォスファチジルセリン、セレンを配合したサプリメント(Aktivait)を42日間投与。11頭が試験完了。サプリメントを投与しなかった対照群と比べ、日中起きている時間、認知、そそう、飼い主との交流に改善が認められ、特に21日目以降でこの差が顕著だった。

眼疾患

治験糖尿病性白内障

Williams DL. Effect of Oral Alpha Lipoic Acid in Preventing the Genesis of Canine Diabetic Cataract: A Preliminary Study. Vet Sci. 2017 Mar 16;4(1). pii: E18.

 

糖尿病の犬30頭を対象に、α-リポ酸(2 mg/kg)を経口投与した場合とビタミンC(5 mg/kg)とビタミンE(2 IU/kg)を経口投与した場合を比較。白内障を発症するまでの時間はα-リポ酸で240 ± 36 日、ビタミンC+Eで148 ± 9 日と、α-リポ酸を投与していた方が有意に長かった。

実験的研究網膜変性

Wang Y, Wang W, Liu J, Huang X, Liu R, Xia H, Brecha NC, Pu M, Gao J. Protective Effect of ALA in Crushed Optic Nerve Cat Retinal Ganglion Cells Using a New Marker RBPMS. PLoS One. 2016 Aug 9;11(8):e0160309.

 

緑内障モデルとして若齢猫において視神経挫滅を実験的に誘発したのち、5頭にα-リポ酸を単回静脈投与し(15 mg/kg)、5頭は無処置とした。7日後に採取した検体について網膜細胞特異的免疫染色を行ったところ、α-リポ酸の投与により網膜神経節細胞の損傷をある程度防ぐことができ、特にアルファ細胞に効果を示す可能性があることがわかった。

ミトコンドリア機能の改善

実験的研究

Head E, Nukala VN, Fenoglio KA, Muggenburg BA, Cotman CW, Sullivan PG. Effects of age, dietary, and behavioral enrichment on brain mitochondria in a canine model of human aging. Exp Neurol. 2009 Nov;220(1):171-6.

 

8〜12歳のビーグル犬23頭をサプリメントなし+行動療法なし、 サプリメントなし+行動療法あり、 サプリメントあり+行動療法なし、 サプリメントあり+行動療法ありの4群に分け、2.4年〜2.8年間治療を行った。行動療法=2頭共同飼育、屋外の散歩、作業・学習訓練。サプリメント=ビタミンEL-カルニチン+α-リポ酸+ビタミンC+野菜+果物の増量。サプリメントの給与により脳ミトコンドリアにおけるフリーラジカル産生量が減少し、電子伝達系(複合体I)が活性化されることが示された。

有害作用

症例報告

Loftin EG, Herold LV. Therapy and outcome of suspected alpha lipoic acid toxicity in two dogs. J Vet Emerg Crit Care (San Antonio). 2009 Oct;19(5):501-6.

 

  • 症例1(1.5歳・去勢雄のグレータースイスマウンテンドッグ):推定 191 mg/kg の α-リポ酸を誤飲。7〜10時間後に震え及び飼い主に対する攻撃性を示す。初診時に頻脈、低血糖、ALT上昇、リパーゼ上昇。入院治療中も低血糖が持続(症状なし)、急性肝炎から凝固障害にいたったが、入院・自宅治療により回復。
  • 症例2(3.5歳・避妊雌のアメリカン・スタッフォードシャー):推定 210 mg/kg の α-リポ酸を誤飲。当日夜に元気消失、嘔吐。嘔吐と食欲廃絶が続いたため2.5日後に救急病院へ。低体温、頻脈、軽度脱水、腹部圧痛、直腸内出血、低ナトリウム血症、高カリウム血症、低塩素血症、ALT ・BUNクレアチニン・リパーゼの上昇、リン・グロブリンの低下、乏尿が確認される。血糖値は正常。治療しても回復しなかったため安楽死。組織病理検査により肝臓に軽度の脂肪変性を伴ううっ血性・炎症性・線維性病変、腎近位尿細管上皮にびまん性の変性及び壊死が確認される。

実験的研究

Hill AS, Werner JA, Rogers QR, O’Neill SL, Christopher MM. Lipoic acid is 10 times more toxic in cats than reported in humans, dogs or rats. J Anim Physiol Anim Nutr (Berl). 2004 Apr;88(3-4):150-6.

 

健康な未去勢雄の成猫10頭に高用量(60 mg/kg)または低用量(30 mg/kg)のα-リポ酸を経口投与。高用量投与では、投与後6時間以内に1頭が死亡(うっ血肝・肺塞栓)、その他の猫では食欲不振、流涎、攻撃性、運動失調、血清アンモニア濃度の上昇、ALT上昇、AST上昇などが確認された。低用量では臨床症状は観察されなかった。病理組織検査では、高用量・低用量ともに肝細胞の腫大、洞様毛細血管構造の不明瞭化、貯蔵脂肪・グリコーゲンの消失などの病変が観察された。α-リポ酸の高濃度の蓄積が認められたのは肝臓、消化管、腎臓だった。この研究では猫におけるα-リポ酸の最大耐容量は 13 mg/kgと推定されており、人や犬の10倍以下であることが明らかとなった。