獣医師による手作り食・自然療法ガイド

File 9:パーソンラッセルテリア・キオラちゃん(12歳・心臓病)

今月の「自然派わんにゃんカルテ」はパーソン・ラッセル・テリアのキオラちゃん。以前に登場したラウルくんと同居する女の子(避妊雌・12歳)です。何とも愛らしい表情ですね。

キオラちゃんは心臓の「僧帽弁」と「三尖弁」の両方がうまく閉じなくなる連合弁膜症という病気です。心エコー検査では少しずつ病気が進行しているそうですが、かかりつけの獣医さんも感心してしまうほど元気に毎日を過ごしています。私たちが飼い主さんのお話をうかがう中で見えてきた大切なことは、飼い主さんの対応力と実践力の高さでした。

キオラちゃんはどんなこですか?

  • ラウルと同じく海外駐在時に迎えました。
  • 元気で明るく、好奇心旺盛でハンター気質、人にはどなたにでも挨拶をしますが気が小さいです。
  • わんこには興味がなく、やんちゃなわんこには吠えてしまいます。体質診断の結果は火でした。
  • 頭の回転が速くずる賢い所があり、例えばボール遊びをしていて疲れてくるとラウルが取りに行き、途中で落とすとそれを自分の手柄のように持ってきます。
  • 水遊びや山、雪遊びでは傾斜のある所が大好き。水辺、山に行くと楽しすぎて目が爛々としていますが、疲れると私の後ろでぼーっとしているオンオフの切り替えがちゃんとできる子です。
  • 10歳の時に心雑音が確認され、心臓弁膜症と診断されました。
  • その影響で心肥大になり、気管虚脱にもなりやすく。一度、肺水腫になったこともありました。
  • 現在は、ベトメディン(慢性心不全薬)、フロセミド(利尿薬)、ベトルファール(鎮咳薬)を服用しています。

手作り食にどんな効果を感じましたか?

10歳で心雑音が聞こえるようになるまで、散歩中の誤飲での開腹手術以外は大きな病気もなく、現在も病気の割に元気いっぱいなのは手作りご飯のおかげではないかなと思っています。

現在のお食事

最近、クレアチニンBUNが高めになってきたため、ラウルと同じ腎臓病食に切り替えました。

  • 1日3回、一日分の配分です。ラウルと同じく生食だとお腹を壊してしまうようになったので現在は加熱食です。
  • メイン:鰯、すずき、かつお、さばなど身体を冷やしも温めもしない中間タイプの魚や鶏胸肉を100〜130 g 。卵白を15gくらい。身体が冷えてるかなと思ったらラム肉を加えます。
  • 野菜:人参、小松菜、ブロッコリー、ごぼう、レタスを中心に旬のものを100g〜130g。電気圧力鍋で煮て、煮汁はこぼし、ハンドブレンダーで混ぜてペーストにします。
  • 炭水化物食品:さつまいもを少量と白米や玄米パスタ、添加物不使用の玄米シリアルを25g〜30g。
  • スープになるように葛湯や白湯を入れています。
  • 大豆製品はアレルギーがあるので避けています。
  • ハツが手に入る時はハツもあげています。
  • ときどき食後にマヌカハニーを小さじ4分の1程度。白湯や葛湯に混ぜて与えています。
サプリメント

還元型CoQ10L-カルニチンタウリン・ハトムギパウダー・フラックスシードオイル(亜麻仁油)・ラムかビーフのトライプ・緑イ貝のパウダー・ビタミンE・ビーポーレン(朝)・昆布粉末(ヨウ素源)・卵殻パウダー(カルシウム源)

心臓病対策にこんな工夫をしています

  • 若い頃はお肉が中心でしたが、現在はお魚を多めにしています。
  • 治療薬の投与を開始する前は、野菜、お魚を無水で圧力鍋で調理したものをハンドブレンダーで細かくしていましたが、クレアチンの数値が上がり、利尿剤が追加された頃から、カリウムを減らすべく、細かく食材を切った後に圧力鍋で水と一緒に調理し、茹でこぼしをしています。

もともと食にムラがある子で、量が少しでも多いと嘔吐し、少なくても嘔吐をするので適量を知るのが大変でした。

1つでも嫌いなものが入っていると食べませんでしたが、ハンドブレンダーで細かくすると気付かず食べてくれるように。ハンドブレンダー様様です。

食事以外で気をつけていることは?

  • 健康診断を年2回。血液検査、尿検査、糞便検査、心電図、胸部・腹部のレントゲン、腹部・心臓の超音波検査、甲状腺ホルモン検査を受けています。心臓病と診断されてからは、2ヶ月おきに心エコーと血液検査を実施。
  • 自宅では、安静時の呼吸数の記録を行なっています。
  • また肺水腫にならないよう、こまめに庭に出したり、散歩に行ったりして、排泄させるよう心がけています。
  • 散歩はラウルに合わせた長さなので、キオラが途中で疲れたら休めるようカートを必ず持ち出すようにしており、暑い日などは保冷剤カバーを作り、保冷剤を入れて中が程よくひんやりするようにしています。
  • 外出は好きなのに車内のクレートに入っての移動が苦手で、緊張からパンティングしてしまうのですが、安全性からそのままクレートを使っていました。今は心臓に負担がかかってしまうのでドライブベッドを作り車内でも快適に移動できるようにしました。
  • 整体の先生の所でも月に1度身体のメンテナンスをしてもらっています。

おとなしく整体を受けています。

色々と考えなければいけない事はありますが、飼い主が元気がないと犬達にも伝わってしまうので、彼らが楽しく毎日過ごせるように飼い主もできる範囲で楽しんでやらなければと心がけています。

獣医師より

僧帽弁と三尖弁の両方がうまく働かない状態になっているキオラちゃん。閉まらない弁の機能を補うために心臓が普通よりも一生懸命働いている状態です。それでも毎日明るく過ごせているのは、激しい運動や暑さを避け、車での移動を快適にしてあげるなど、飼い主さんの細やかな配慮で心臓への負担がずいぶん減らせているせいでしょう。熱くなりやすい火タイプのキオラちゃんにあった食事メニューを見つけ、若い頃からの運動で基礎体力を培ってきたことも大きいと思います。

心臓病の管理には、現代医療・食事療法・ハーブ療法・理学療法の全方向からの取り組みが役立ちます。キオラちゃんのかかりつけの病院では、しっかりとした定期検査と早め早めの治療を行っており、進行を最大限に抑制してくれていますね。

理学療法としては、運動量を減らさなくてはいけない代わりに、整体と自宅でのバランスボールで筋肉量をきちんと維持されてらっしゃいます。筋肉は第二の心臓(ポンプ)と言われており、筋肉がしっかりついていると血液が淀みにくく、心臓の負担を減らすことができます。

心臓病に大切な栄養素

食事診断の結果、ビタミンEビタミンDオメガ3脂肪酸CoQ10カルニチンタウリン、マグネシウムといった心臓病の管理に大切な栄養素は食材とサプリメントできちんと補われていました。とても優秀です。心臓病では、腎臓が悪くなくてもクレアチニンBUNが上がってしまうことがありますが、心臓と腎臓はとても密接な関係にあるので、ラウルくんと同じ食事療法に切り替えたのも正解です。

一つだけ気になったのが、カリウムを制限していることでした。ラウルくんがカリウム高めだったとのことですが、利尿剤を服用しているキオラちゃんの場合は、カリウムが排出されやすくなるので、逆に低カリウム血症にならないよう注意が必要です。

将来的には、現在のカロリー量とタンパク質量を維持しながら、ビタミンB群と動物性ビタミンAの補給や貧血予防を行っていけば安心。いずれも少量の内臓肉でカバーできます。

心臓の負担を減らす漢方薬

気管虚脱や咳を起こしやすい心不全には、血府逐瘀湯(けっぷちくおとう)という漢方薬がおすすめです。全身の血液の流れを助けることで心臓の負担を軽くし、気管虚脱やうっ血(肺水腫)を起こしにくくしてくれます。心臓病でおきやすい貧血も予防。キオラちゃんには、よく夢を見る、気が小さい、よく吠える、手足が冷たいといった血虚のサインもあり、この漢方薬があっていることを示しています。

心臓病の漢方療法では、現代医療と同じように数週間〜数ヶ月おきに処方を確認するのがベスト。例えば、何らかの理由で炎症が強く出ている場合は柴胡加龍骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)、食欲不振が気になる場合は六君子湯(りっくんしとう)、うっ血を起こしたときには苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)というように、その時々の状態に合わせて漢方薬を切り替えたり併用したりしていきます。

その後の経過

ケイトさんはさっそくカリウム制限をやめ、おすすめした漢方薬やハーブも取り入れてくださいました。

漢方薬については、歯周病による炎症が気になっていたため、柴胡加龍骨牡蠣湯から開始。歯が抜けて歯茎の腫れと舌の赤みが和らいできたので、現在は血府逐瘀湯に切り替えているところだそうです。歯周病対策におすすめしたデビルズクローやエキナセアもすぐに取り入れてくださいました。

エコー検査では左心房の逆流が少し増えたそうですが、日中は咳がほぼなく、夜になると少し出る程度で、かかりつけの獣医さんにも褒められたそうです。飼い主さんもキオラちゃんも本当によくがんばっています。

ラウルくんとキオラちゃん、いつまでも一緒に仲良く暮らせるよう心から願っています。

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編集後記
2回にわたりご協力をいただきありがとうございました。きめ細かな対策といいと思ったことはすぐに取り入れる実践力の高さ。ケイトさんが愛犬の病気と向き合う前向きな姿勢に私たちは感動しっぱなしでした。
 
本シリーズでは、同じような悩みをもつ飼い主さんたちが不安や悩みを共有し、情報交換できるようコメント欄を設けています。どうぞご自由にお使いください。

8 COMMENTS

クマ

はじめまして。ハンドブレンダー便利そうですね!我が家も食べて欲しいものほど拒否するアマノジャク?がいまして、試してみようと思います。隠しても隠しても本当に上手によりわけて残すんですよネ。良いアイデアありがとうございます?

ケイト

クマさん
初めまして!コメントありがとうございました!
すっかりお返事が遅くなりごめんなさい。
苦手なものはわんこもより分けちゃって上手に残すんですよね(;’∀’)
ブレンダーで細かくしたら食べてくれますように!

あすか

こんにちは。ラウルくんのところでコメントさせていただいた者です。弁膜症の子と腎臓病の子、お二人のお世話をされていたのですね!1匹でも大変なのに・・・

その後、うちの子もラウルくんと同じようにお魚の回数を増やして野菜も多めにしてみました。今まで勝手にお肉が好きと思い込んでいたのですが、お魚も結構好きなようで・・・そしてBUNがちょっと下がりました!今後も続けていこうと思います。一言お礼が言いたくて。ありがとうございました。

ケイト

あすかさん
お返事が遅くなってしましましたがコメントをありがとうございます!
ラウルの記事へもコメントありがとうございました!
そしてBUNがちょっと下がったとの事で私もとてもうれしい気持ちです。
数値はあがったり下がったりと一喜一憂してしまいますが、あすかさんとわんちゃんが毎日楽しい気持ちで過ごしていけますように。
報告してくださり本当にありがとうございます!

ヒカリ(マルチーズ)

はじめまして。

我が家も高齢になってから僧帽弁閉鎖不全症と診断されてお薬飲んでいます。病院では塩分を控えるくらいしか言われてなかったのでとても参考になりました。

筋肉の件、ショックでした。うちはもともと散歩をあまりさせていなかったので、、、でも気を取り直して犬のバランスボールを調べてみました。整体は見つからなくて。漢方は今取り寄せ中です。

それで、キオラちゃんはバランスボール、何分くらいしてますか?何分くらいなら心臓に負担がかからないか知りたいのです。よろしくお願いします。

Wholly Vet様、心臓病のページ、リクエスト送信させていただきました。どうぞよろしくお願いします。

ケイト

ヒカリさん
コメントをいただきありがとうございました。お返事が遅くなりすみません。
わんちゃんの整体をやっているところは少ないと思うので見つけるのは中々難しいですよね(;^_^A
私も子供のころからお世話になっている先生だからこそ引き受けていただけました。

キオラは体調が良さそうならば一日5分ほど。
体調が悪そうな時はやりません。
あとは乗りたくなさそうだけど体を動かしたいかなっていうときは家の中をおもちゃをピコピコ鳴らしながらゆっくり一緒に歩いています。
お散歩も涼しい時間帯に10分から15分ほど本人のスピードに合わせて、しんどそうなら抱っこかカートに乗せて帰ってきています。
わんちゃんの様子の変化は飼い主さんにはよくわかると思うので、わんちゃんの様子に合わせてあげるといいとおもいます。

心臓に負担がなるべくかからないように気を遣いますよね(;^_^A
ヒカリさんもわんちゃんも穏やかに過ごせますように。

茶々

はじめまして。愛犬も僧帽弁不全症で心臓の薬を飲んでいます。やはりカリウムが心配だったのですが、特に心配しなくても大丈夫でしょうか。利尿薬は飲んでいません。

Wholly Vet 編集部

茶々さん、こんにちは。
キオラちゃんが飲んでいる薬と同じでしたら、心配する必要はないでしょう。弁膜症に使われるお薬でカリウムが高くなりやすいものとしては、ACE阻害薬、カリ保持性利尿薬(スピロノラクトンなど)などがありますが、標準的な量を守っていて、併用薬に気をつけていれば、カリウムが大きく増減することはあまりありません。併発症があるかどうかにもよりますので、かかりつけの先生とよく相談してくださいね。心臓病の定期検査では電解質の測定を必ず行うはずです。

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