獣医師による手作り食・自然療法ガイド

生にする?加熱調理する?

私たちの 手作り食ガイドでは「温めた生食」と「軽く加熱した調理食」をすすめています。どちらか一方だけを押し付けることはしていません。

これは、犬猫の体質や好み、飼い主さんの生活スタイル、季節に合わせて柔軟かつ手軽に手作り食を取り入れて欲しいから。医学的にみても、生食より加熱調理食がすすめられる、またはその逆といった場面が往々にしてあります。

MEMO
この記事は主食の肉や魚を対象にしています。穀類、芋類、一部の野菜は生のままでは消化できません。

生食と加熱食、うちの子にはどっちがいいの?

生食と加熱食にはそれぞれ利点と欠点があります。もしどちらにするか迷ってしまったら、両方を試してみるのがおすすめ。早ければ数日から数週間、遅くても半年くらいで違いが現れます。性格や行動、毛づや、皮膚の乾燥具合、目やに・耳垢などの分泌物、ウンチの状態、トイレの習慣を観察するとわかりやすいでしょう。血液検査等の一般的な病院での検査では、はっきりした違いがでることはあまりないため、飼い主さんの観察力が鍵。

脈や舌の色にも変化が現れやすいので近くに自然療法医がいれば相談してみるのも一手です。

生食の特徴

  • ネコ科動物とイヌ科動物の本来の食性に近い”生物学的に正しい”食事方法
  • 食物に含まれるさまざまな栄養素や生理活性物質、抗炎症・抗酸化成分を壊さずに新鮮なまま与えることができる。
  • 体の熱や炎症を鎮めるので、暑がりさんや炎症性疾患のある犬猫、暑い季節に特におすすめ。
  • 寄生虫などによる食中毒を防ぐために、最低限必要な衛生管理を行う必要がある。
  • 冷たいまま与えると胃腸を冷やして消化不良や栄養不良状態を起こしたり、全身循環の滞りから気分のムラや皮膚の乾燥、局所的な痛み・腫瘤、免疫力の低下などさまざまな不調が現れる。
そのちょっとした不調は冷たい食事のせいかも?温かい食事で愛犬と愛猫の健康を守りましょう

加熱食の特徴

  • 食中毒の心配が少ない。
  • 長時間出しておいても腐りにくいため、すぐに完食しない犬猫に安心。
  • 調理することによって風味が増し、食いつきやすくなることがある。
  • 体を温めてくれるため、寒がりさんや手足がいつも冷たい犬猫、内臓の冷えが進む高齢期、寒い季節におすすめ。
  • 熱に弱い水溶性ビタミン、タウリンコリン等の栄養素や他の活性成分が壊れてしまう。
  • 加熱しすぎると脂肪やタンパク質の変性、水分含量の低下、副産物の生成などが起こり、ペットフードと大差がなくなる。

加熱食がすすめられる病気とは?

生物学的観点からは犬猫本来の食生活に近い「温かい生食」がすすめられても、抱えている病気によっては加熱食が必要になる場合があります。

消化器系の疾患

唾液、胃酸、膵液、胆汁、蠕動運動、腸管免疫系、腸内の善玉菌叢・・・動物の消化管には食物をとおして入ってくる病原体から体を守るさまざまな機能が備わっています。でも、慢性的な消化器系の疾患では消化液の分泌不全や胃腸壁の炎症、腸内細菌叢のバランスの乱れが起こるため注意が必要。悪玉菌が増殖しやすく体内に簡単に入り込むようになります。

膵炎、膵外分泌不全、胃炎、炎症性・漏出性腸症、重度の食物アレルギーなどさまざまな病気が当てはまります。胃酸抑制剤やNSAID(消炎鎮痛薬)を長期投与している場合も気をつけてあげましょう。

肝臓の疾患

消化管で排除されずに血中や胆道に入りこんだ菌は、そのまま肝臓に流れ込み、肝臓のろ過機能と免疫機能によって除菌されます。肝臓病の治療中は、肝臓に余分な負担をかけないよう加熱調理食にすると回復が早くなります。

免疫抑制や免疫不全を起こした状態

抗がん剤やステロイド、免疫抑制剤を投与中の場合や免疫不全を起こす疾患がある場合も気をつける必要があります。予防的抗生物質の投与を行なっていない場合や白血球数が下がっているときは、加熱食にしてあげましょう。

免疫力や胃腸機能が低下してくる超高齢期、免疫力がまだ不安定でワクチンを接種したばかりの子犬期・子猫期も注意が必要です。

そのほか、手術や重度の病気、環境の変化などのストレスによっても腸管pHが急激な変化を起こし、病原体に対する抵抗力が下がることがあります。

そのほか

特に病気は見つからないのに生食を与えると吐く、軟便になる、お腹がギュルギュル鳴るといった症状もよく報告されます。長年ペットフードを食べていた子で起こりやすいため、まずは脂肪の少ない加熱食から慣らして少しずつ生食に切り替えてあげましょう。お肉の購入先や下準備をする際の衛生管理も見直す必要があります。糞便検査などの基本も忘れずに。

栄養成分を壊しすぎない調理方法とは?

さて、それでは”軽く”調理とはどれくらいを指すのでしょうか。私たちがおすすめしているのは、高熱を与えず短時間で調理できる「水炒め」と「蒸す」の2つの方法です。

ご覧のように、調理温度が高く、時間が長くなるほど体を熱くする作用が高くなります。体の熱には「よい熱=体温」と「悪い熱=炎症」の2種類がありますが、加熱すればするほど体を冷やす水分が飛んでしまい、抗炎症・抗酸化作用のある栄養成分が壊れてしまうと考えると納得ですね。

水炒めって?

 水炒め(ウォーターソテー)は、熱による栄養素の損失を最小限に抑える調理方法で、マクロビでよく使われます。少量の水(大さじ1〜3)を小鍋やフライパンで温め、食材をその中で転がして”炒め”ます。お肉を押してみるとまだ弾力が残っていて、中に火が通ったかな?まだちょっと早いかな?くらいで止めます。生食と同じ衛生管理を行っていれば、半生でも安心です。

冷ましてから与えるか、冷たい食材と混ぜてちょうどいい温度に調節します。使用する水の量が少ないので、水に溶け出てしまう成分も一緒に与えることができます。

生食を温める方法

さまざまな方法がありますが、体温程度に温められるのであれば(暑がりさんや夏は室温程度)、医学的にも薬膳的にも大きな違いはありません。下準備の方法や犬・猫・飼い主さんの好みに合わせて選ぶといいでしょう。

  • 温めたお湯やスープをかける
  • 湯煎する
  • 湯びき・湯がく
  • 表面だけ焼くか水炒めにする
  • 冷たい食材と調理したての熱い食材を混ぜる

例えば、水資源を大切にしている方や時間を節約したい方、下準備の時に粉物や野菜も混ぜてしまう方は、湯煎や湯通しよりも少量の熱湯を回しかける方法が向いています。夜中にトイレに起きないよう夜ごはんの水分摂取を控えている場合は、ザルに入れて温かい流水にさらしたり、熱湯にくぐらせることができますね。

逆に腎臓病や尿路結石のために多めの水分摂取を心がけている場合は、温めたスープやお湯をたっぷりかけて雑炊状の食事にすることができます。

編集部より

ナチュラル派の猫ちゃん・わんちゃんの暮らしを紹介する新シリーズ「自然派わんにゃんカルテ」では、飼い主さんが実践しているさまざまな方法をご紹介していく予定です。

あなたはどちら派?



よくある質問

はい

でもそれは、超高温・高圧で加工した一部のペットフードの話。家庭で調理する程度なら心配する必要はありません。

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