獣医師による手作り食・自然療法ガイド

猫の甲状腺機能亢進症の治療方法・食事療法

生涯を通した治療と経過観察が必要です。年齢、合併症、費用、獣医師の経験などに基づき、獣医師と話し合って最適な治療方法を1つまたは複数選択します。例えば、超高齢の猫ちゃんでは、無理して手術するよりも食事や薬物療法、漢方療法を併用していく方法を選ぶ飼い主さんが多く、薬を飲ませるのが難しい子では手術や食事療法を行います。

外科療法

原因である甲状腺を手術で切除します。手術の前に、薬物療法を行って状態を安定させる場合もあります。高齢の場合や他の疾患が併発している場合は、リスクが高いため手術できないことがあります。

術後、声が変わったり、甲状腺機能低下症などの副作用が起こることがあります。

薬物療法

1. 抗甲状腺薬

甲状腺ホルモンを作る過程を阻害する薬です。メチマゾールやカルビマゾールが代表的。

ちょうどいい量の甲状腺ホルモンが産生され、かつ、薬の副作用が出ないよう数週間おきに検査をしながら用量を少しずつ調節していきます。投与を中止すると再発するため、生涯投薬していく必要があります。また、甲状腺自体を除去したり、甲状腺の肥大を抑制するわけではないため、病気が長くなると投与量を増やす必要が出てくる可能性があります。副作用には、顔面のかゆみ、かゆみのための自傷、嘔吐、肝不全、出血などがあります。

2. 放射性ヨウ素

放射性ヨウ素剤を投与すると、甲状腺に吸収され、放射線を受けた甲状腺組織が破壊されます。1度の治療で治癒することが多く、成功率も年々高くなっています。ただし、放射能が漏れない特殊な入院設備のある病院で専門資格のある獣医師しか行うことができず、入院中は面会することができません。退院後も、放射能汚染を防ぐため、数週間は外に出さず、排泄物もすべて回収します。副作用として、一過性の嚥下障害、甲状腺機能低下症が起こることがありますが、抗甲状腺薬や手術よりも生存期間が長いことが報告されています。

MEMO
2019年7月、放射性ヨウ素剤で甲状腺機能亢進症の治療を行なった人の患者において、線量に比例してがんの発生率が高くなるとの報告がありました。猫についてはまだこのような報告はありませんが、線量が低すぎると甲状腺細胞を破壊しきれず、一部の細胞ががん化することが知られています。

漢方療法

4つの病期それぞれに合わせた漢方処方を用います。漢方薬に良好な反応を示した場合、病期が逆戻りしていきます。食事療法と併用するだけで十分な効果が得られることがあるため、超高齢、慢性腎不全の併発などで手術ができない猫にもおすすめです。また、抗甲状腺薬と併用することで薬物の量を減らし、副作用の抑制にも役立ちます。

甲状腺自体を除去するものではないため、生涯にわたって食事療法を併用しながら経過観察を継続していく必要があります。

よく処方される漢方薬

病期 1 病期 2 病期 3 病期 4
胃苓湯
二陳湯
温胆湯 知柏地黄丸 桂枝加龍骨牡蠣湯
二仙湯
症例紹介 | 猫の甲状腺機能亢進症

猫の甲状腺機能亢進症の食事療法

炭水化物を避ける・ヨウ素含量の多い食品を避ける・温めた食事を与えることが基本です。その上で、4つの病期に合わせた食材を足していきます。肉や魚でタンパク質とカロリーを十分にとり、野菜を少々を加えるとよいでしょう。

早期の段階では、食事療法だけでも症状が軽快しますが、食事療法をやめると再発します。

1. 炭水化物を避ける

肉食動物である猫ちゃんにとって、炭水化物(小麦、米、とうもろこしなど)の多い食事は甲状腺機能亢進症の始まりである消化不良炎症を招く最大の原因です。穀類不使用のキャットフードや 肉・魚・卵中心の手作り食で早めの対策を行いましょう。

現在の体重ではなく理想体重でカロリー量の計算を行い、カロリー源として、タンパク質(肉・魚・卵・内臓肉)と脂質を使い、体重の維持を心がけます。慢性腎臓病が併発している場合は、慢性腎臓病の食事療法にも従います。

猫の手作り食バランス作ってみよう猫のごはん 犬と猫の慢性腎臓病(腎不全)の食事療法

2. ヨウ素含量の多い食品を避ける

ヨウ素は甲状腺ホルモンの材料として使われます。ヨウ素の摂取量を制限することで、甲状腺ホルモンの産生を抑えます。ヨウ素は、海藻類や貝類に多く含まれています。魚は、ヨウ素含量の低いものなら週数回程度まで与えて大丈夫です。

ヨウ素の豊富な食べ物

  • 昆布、ひじき、わかめ、青のりなどの海藻類
  • だしの素

ヨウ素が比較的多い食べ物

  • タラ、貝類、カニ
  • うずらの卵

また、ヨウ素の量が大きく変動することは、甲状腺機能亢進症の原因の一つとして疑われています。安定した成分量を保証する質の高いペットフードを選ぶことも大切です。

3. 温めた食事を与える

冷たい食事は胃腸の消化機能を低下させるため、猫ちゃんが必要な栄養分を食事から十分に得ることができず、逆に不要なものばかりが体に溜まっていく「水湿と痰」の原因になります。人肌程度に温めた食事を与えて、胃腸機能を回復させることも、甲状腺機能亢進症の治療に大きな役割を果たしています。ただし、暑がる、口渇などの「熱」の症状がある猫ちゃんでは熱くしすぎないよう注意が必要です。

そのちょっとした不調は冷たい食事のせいかも?温かい食事で愛犬と愛猫の健康を守りましょう

4. その他の注意点

  • ゴイトロゲン(甲状腺や甲状腺ホルモンの機能に影響する物質)が含まれる食品の摂取を避けます。大豆、キャベツ、カリフラワー、ブロッコリー、芽キャベツ、小松菜、ホウレンソウ、かぶ、イチゴ、亜麻仁、松の実、キャッサバなどがこれに含まれます。
  • 缶詰の内側のコーティングに使用されるBPA(ビスフェノールA)などの化学物質もゴイトロゲン作用があります。缶詰フードを使用する場合は、BPAフリーのものを選びましょう。
  • 新鮮な水を好きなだけ、常に飲めるようにしてあげましょう。

病期別おすすめ食材

病期 1 病期 2 病期 3 病期 4
牛肉、鶏肉、ラム肉、アルファルファ、キノコ、オリーブ、パパイヤ、にんにく 卵、鴨肉、うずら肉、アスパラガス、セロリ、きゅうり、もやし、ブルーベリー、りんご、りんごの皮、マンゴー、メロン、パイナップル、スイカ、リコリス(避ける食品:豚肉・乳製品) 牛肉、鴨肉、豚腎臓、卵、アルファルファ、アーティチョーク、アスパラガス、もやし、トマト、ズッキーニ、りんご、マンゴー、パイナップル、スイカ 鶏肉、ラム肉、ベニソン、マス、牛肉、鴨肉、腎臓、卵、小麦胚芽、アルファルファ、アーティチョーク、アスパラガス、もやし、トマト、ズッキーニ、りんご、マンゴー、パイナップル、スイカ

5. おすすめのサプリメント

  • カルニチン:125〜250 mgを1日2回
  • シロネ属(Bugleweed・Lycopus europeus)エキス(25〜40%):0.5〜1.5 mL/10 kgを希釈して1日2〜3回に分けて与える。レモンバームと併用可能。
  • レモンバーム(Melissa officinalis)エキス(45%):0.5〜1.5 mL/10 kgを希釈して1日2〜3回に分けて与える。
避けましょう
甲状腺機能を高めるアシュワガンダやブラダーラック等のハーブは避けるようにしましょう。