獣医師による手作り食・自然療法ガイド

肝臓の不調を早めにキャッチして薬膳で改善

漢方医学でいう「肝」は、解毒器官であり、胃腸が食物から抽出した気血(養分や血液成分、エネルギー)を受け取って全身すみずみまでスムーズに行き渡らせる役割を持つといわれています。そのため、肝の気血の量と流れの両方を維持することは全身の健康状態にとても重要な意味を持っています。現代医学の肝臓の役割ととてもよく似ていますね。

でも肝臓は余力が非常に大きく、再性能も高いため、多少の異常があっても血液検査や症状に現れることはありません。明らかに何かがおかしいと感じた時点で、すでに70〜80%の機能が失われていることもあります。

さらに困ったことには、初期の肝臓病の症状は食欲不振、嘔吐、軟便、元気消失などで、他の病気とまったく同じ。しかも肝酵素が上昇したからといって肝臓が原因とは限らないのです。はっきりした肝障害や胆道障害でない限り獣医師も判断に迷うことが多く、確実な診断には鎮静や全身麻酔下で生検を行うしかありません。

だからといって異常が表面化するのをただ待っている必要はありません。漢方医学の知恵を生かして、血液検査や超音波で異常が現れる前に肝臓の不調をキャッチして食事やハーブで緩和していきましょう。

肝臓の異常のサインを早めにキャッチ!

次の症状が複数以上現れている場合は、肝臓が弱ってきているか、肝臓が影響を受けやすい体質です。

肝血が足りていない(肝血虚)

  • 皮膚・被毛が乾燥しやすい
  • ときどき軽いかゆみを起こす
  • 足先や耳先が冷たい
  • 白くて細かいフケがでる
  • 若いのに白髪がある
  • 不安症がある・イライラしやすい・臆病
  • 手足が震えたり、筋肉がピクピク動くことがある
  • 夢をよくみる
  • ドライアイになりやすい・視力が落ちてきた

肝血虚は、猫よりも犬に多く、ごく初期は症状が軽いため性格や体質と間違われることがほとんどです。肝臓の病気だけでなく、胃腸や腎臓の弱り、慢性疾患など、肝臓以外の病気に二次的に生じることもあり、肝臓が生まれつき小さい子にもみられます。肝酵素がときどき意味もなく軽度上昇したあと自然に下がることがあるかもしれません。BUN・アルブミン・コレステロール・ビリルビン・ヘマトクリットは正常範囲内で低めかも。

獣医師による自然食・自然療法ガイドあなたの犬猫は夢を見ますか?それは病気のサインかもしれません

肝気の量と巡りが低下(肝気虚・気鬱滞)

  • 気分の浮き沈みが激しい
  • 攻撃的になったり落ち着かないことがある
  • 眠りが浅くなる
  • 動くと軽くなる痛みがある
  • 食欲が安定しなくなる
  • 嘔吐、軟便などの消化器症状が現れては消える

肝血虚が進行し、養分不足により肝臓の機能が低下してきた状態です。ストレスによって肝気がダメージを受けて生じる場合もあります。全身のエネルギーの流れが滞ると同時に肝臓の解毒能が低下するため神経伝達物質やホルモンの新陳代謝も低下し、気分・精神障害が顕著になります。血液検査では肝酵素やコレステロール、TGが高くなることもありますが、正常なこともよくあります。膵炎や腸炎、食物アレルギーが診断されることがあります。


肝胆系の炎症(肝胆湿熱)

猫ちゃんに多いパターンです。炭水化物や酸化脂質の多い食事(=ペットフード)が原因であることが多く、膀胱炎、関節炎、皮膚炎といった病歴があるかもしれません。進行すると肝酵素が顕著に上昇したり、黄疸や肝リピドーシスが起こりやすくなります。新鮮でバランスの取れた手作り食が対策の第一歩。

  • 食欲にムラがある
  • ときどき吐く
  • 便が粘つく
  • 肥満気味
  • 大きく茶色っぽいフケがでる、または耳が臭い
  • 歯周病・歯石が溜まっている
  • お腹が張っている
  • どこかに痛みがある
  • ときどき熱をだす

肝胆湿熱は犬でも起こりますが、すでに黄疸や腹水などが現れていることが多く、現代医学でも診断が可能な段階。食事だけで改善できる段階ではなく、西洋医学と自然医学による積極的な治療が必要です。


肝臓の働きすぎ(肝実証)

肝臓が働きすぎてオーバーヒートした状態。極度のストレスによっても生じることがあります。他の病気がない限り、血液検査に変化が現れることはありません。

  • 目が充血している
  • 暑がる
  • 歯茎から出血しやすい
  • 水をよく飲む
  • 木タイプの犬または猫
  • 春に不調が現れたり性格が変わりやすい

おすすめの食材

わんちゃん・猫ちゃんの肝臓の不調におすすめの食材はレバー。毎日の食事にごく少量(体重の0.1%)を取り入れてみましょう。

内臓肉給与ガイド

肝血を補う

肝血虚・肝気虚タイプに

  • レバー
  • 牛肉
  • 牡蠣
  • アーティチョーク
  • ビーツ
  • タンポポの葉
  • 黒ごま

肝の働きを助ける

肝気虚タイプに

  • レバー
  • 鶏肉
  • エビ
  • タラ
  • サバ
  • にんじん
  • 春菊
  • パセリ
  • ネトル
  • さくらんぼ
  • ライチ

肝をクールダウン

肝胆湿熱・肝実証タイプに

  • 馬肉
  • あさり・はまぐり
  • カニ
  • 豆腐
  • セロリ
  • レタス
  • ラディッシュ
  • クレソン
  • きび・あわ・ひえ
  • 菊花茶
  • ダンデライオンルート
  • ミントティー

デトックス

すべてのタイプに

  • アーティチョーク
  • アスパラガス
  • キャベツ
  • 西洋タンポポ
  • りんご
  • クロレラ
  • 菜の花、小松菜、ブロッコリー、カリフラワー、ケール、芽キャベツなどのアブラナ属野菜
  • ブルーベリー、桑の実、ラズベリーなどのレスベラトロールを含む果物(ブドウを除く)
  • ローズマリー
  • ターメリック
デトックス効果のある野菜・果物・ハーブは、肝臓の解毒・抗酸化機能に大切なグルタチオンの合成を促進したり、腸管内の毒素の排泄を促してくれます。

合わせて読んでね!

肝臓の健康を守るハーブとサプリメント 肝臓と胆嚢の疾患 絶食のススメ