2018 / 01 / 15

猫(犬)が草を食べるのはなぜ?

猫がハムハムと草を食べている姿。猫を飼っている方なら一度は見たことがあるのではないでしょうか。草を食べる行動は、猫特有の行動と思われがちですが、実は犬の方が多く、その理由には次のようにさまざまな説があります。

A. 嘔吐を促す(気持ち悪さを解消する)ため
B. 虫下し・便秘薬として働く
C. 不足している栄養素を補うため
D. 野生時代から受け継いだ普通の行動である
E. 暇つぶし

さて、皆さんはどれが正解だと思いますか?行動学研究やアンケート調査の結果、そして伝統医学の観点からナゾを紐解いてみましょう。

定説

おそらく「吐くため」だと聞いたことのある方が一番多いのではないでしょうか。

ところが、2007〜2010年に行われた調査によると [1-3] 、草を食べる前後に気持ち悪そうにしている、嘔吐するといった行動が実際に観察された割合は考えられていたよりもずっと少なく、犬で0.7〜30%、猫では10〜20%に過ぎないことが明らかになりました。これらの数値は、草を食べない犬猫が吐いたり、気持ち悪そうにしている場合と比べて決して高いというわけではありません。

葉酸や葉緑素といった栄養素の不足を補うためというのもよく聞かれる説ですが、こちらは生物学的に説明がつきません。というのも、犬も猫も草を分解する消化酵素を持たず [4]、調理されていない生の草に含まれる栄養素を利用することはできないのです。また、草を食べる行動は、栄養状態や食物繊維の摂取量に関係なく起こることも報告されています [1,5]。

2010年に報告された研究では、犬にフラクトオリゴ糖を摂取させて実験的に胃腸障害(軟便)を引き起こし、草を食べる行動に変化があるかどうか調査が行われました [6]。その結果、胃腸障害を起こした犬よりも、正常な犬の方が草を食べることが多く、草を食べた後に吐くという行動もほとんど認められなかったことが明らかになり、少なくとも胃腸の不調を直そうとして草を食べるということはなさそうだと結論されています。

これらの研究結果を受け、現在では、草を食べる行動は病気や栄養とは特に関係がなく、野生の肉食動物にも認められる正常な行動であり、おそらく暇つぶしや天然の虫下し効果といった行動学的または生物学的な意味があるのではないかとの見方が主流になっています [1-5] 。草を食べる行為は成犬や成猫よりも寄生虫が感染しやすい幼犬や幼猫に多く見られることもこの説を裏付けており、肉食動物ではありませんが野生のチンパンジーでは、草を食べることで腸管の寄生虫を排出することが実際に観察されているそうです。ただし、駆虫薬をきちんと投与している犬でも、草を食べる行動が見られ [3,5]、野生の肉食動物は主に半分消化されていた草(草食動物の胃内容物)を食べていたと考えられることから、これらの説が正しいと結論するには、さらなる研究が必要そうです。

総合して考えると、Cの説以外はどれも正解で、理由はそれぞれの犬猫によって異なるというのが正しいようです。嘔吐や便通を促すために食べる場合もあるし、退屈しのぎやなんとなく”野生の血”が騒ぐから食べている場合もある・・・というのが実際のところではないでしょうか。しかし、これらの定説がすべてというわけではありません。

漢方医学的な解釈

漢方医学の観点から見ると、犬と猫が草を食べる行動は2種類の病的状態においてよく観察される症状です。

1つ目は、胃気上逆。いわゆる嘔吐、げっぷ、悪心(よだれ)など、普通であれば胃から下方向に向かってに流れるべきものが上に向かって逆流してしまう状態をいいます。毛玉便秘食べ過ぎ腸管寄生虫など、消化管の物理的かつ一時的な閉塞によって起こることがあり、上のABの説にあてはまります。この場合は、嘔吐物や便を観察していれば理由がすぐにわかり、それほど心配することはありません。毛玉を頻繁に吐くようなら、毎日のブラッシングで毛を飲み込む量を減らしたり、便秘がちな子には乳酸菌や食物繊維(猫の場合は動物性繊維)を与えて腸内環境を整えるなど、適切な治療や対策を行うことで草を食べる回数が少なくなります。

ただし、胃気上逆は、猫の巨大食道症肝臓病胃拡張などの腹部膨満を生じる疾患、胃炎膵炎でも認められます。最近急に草を食べるようになったり、頻繁または大量に食べているのに、上記のような単純な原因が見つからない場合は、一度病院で検査をしてもらいましょう。嘔吐や草を食べる行動のほか、腹部や脇腹に触ると嫌がる、怒りっぽくなった、嘔吐物中や舌の上に粘液状のものが観察されるなどの症状が一緒に認められることがあります。

2つ目の病態は胃気虚といって、食べ物を消化し、栄養を取り出して全身に送る機能が低下した状態です。生まれつきの消化吸収障害や食物アレルギー、食物不耐症、炎症性腸炎がある場合に多くみられます。食べても太れない、虚弱体質、貧血、慢性嘔吐、慢性下痢といった症状やコレステロールやアルブミン、グロブリン等の低下が認められるため、割と早いうちに気付くことができます。草以外にも食糞など、口に入るものならなんでも食べてしまう異食行動がみられることがあり、栄養不良状態をなんとか補おうとする本能的な行動と考えられます。

脾胃気虚は、犬猫本来の食性に合わない食事によっても生じます。この場合は、肥満傾向があることが特徴です。長い時間をかけて生じ、慢性化している場合が多いため、気づかれることはほとんどありません。病院で相談しても「体質(年齢)のせいでしょう」「犬や猫が草を食べるのは普通ですよ」と言われ、飼い主さんの方も「そういえば昔から時々草食べてたしなあ…」といって終わることがほとんどでしょう。しかし、私たちの経験では、これが犬猫が草食べる原因でもっとも多いものです。

犬猫にとっての合わない食事とは、炭水化物食品、特に穀物の取りすぎです。犬と猫は草を消化する能力をほとんど持たないのと同じように、穀物もうまく消化することはできません。私たち人間も、お肉ばかり食べていると胃がもたれますよね。それと同じで、本来は肉食だった犬と猫にとっては穀物の過剰摂取が胃腸の弱りの原因になるのです。

ただ、普通に家庭で調理した状態であれば、穀物の繊維質の部分は消化されずに腸管で善玉菌のエサとして利用され、お通じを改善する作用があります。でんぷん質の部分についても、繊維質に囲まれているおかげで一部が糖に分解されて吸収される程度で済むため、少量であれば肥満につながることもありません。

でも、ペットフードの場合はどうでしょうか。ペットフードに大量に使用されている穀物は消化性を上げるために過度な精製や加工処理が行われており、本来なら排泄されるべき糖分が簡単に体内に入りこむ仕組みになっています。体内に入ってきた過剰な糖は、脂肪として蓄積します。特に猫では、糖分を細胞の中に取り込んでエネルギーとして利用する効率が非常に低いため、糖が血中に常に残った状態(つまり血糖値が常に高い状態)になりやすく、インスリン抵抗性から糖尿病などの代謝性障害を起こしやすくなります。もちろん、糖分は犬と猫にとっても必要なものです。しかし本来は、穀類を分解して得られる糖を直接利用するのではなく、肉や脂肪を消化吸収してから、エネルギーや糖に変換して利用していたのです。また近年では、穀物にはグルテンレクチンなどの炎症性物質も含まれていることがわかっており、穀類についてはさらに注意する必要がありそうです。

さて、こうして蓄積した脂肪組織や炎症性物質は、体のあちこちで炎症を引き起こしますが、先にも述べたように、こういった炎症は少しずつ進行するため、不調が表面化するまでに何年もかかることがあります。このタイプの犬猫では、肥満傾向や草を食べるという症状のほかに、繰り返す膀胱炎、外耳炎、肛門腺炎、結膜炎、皮膚炎、関節炎といった炎症性の症状もよく一緒に認められます。この状態を湿熱と呼びます。内分泌系や神経系、腎臓、肝臓に炎症が波及して全身性の症状を示す場合もあり、体内に溜まった不要なものを取り除きたいという欲求から草を食べる行動が増えたり、炎症が胃腸に及んだ場合は、胃腸機能がさらに低下して胃もたれを解消するためにまた草を食べるといった悪循環に陥ることも少なくありません。

もし、愛猫や愛犬にこういった炎症性疾患の既往があり、草を食べる頻度や量が増えてきたと感じたら、ぜひ、お使いのペットフードの原材料や手作り食の内容を確認してみてくださいね。

漢方薬

獣医師によるペットの自然食・自然療法ガイド

草を食べる原因が、脾胃気虚や湿熱にある場合は、食事内容の改善に加えて、漢方薬を併用すると効果があります。

  • 胃苓湯(いれいとう)

唾液が多い、慢性的な嘔吐(特に嘔吐物に粘液や未消化物が混ざっている場合)、食欲のムラ、軟便、尿量の増加、被毛が脂っぽい、大きめの茶色いフケ、体重増加傾向、いびきをかく、疲れやすいといった初期の肥満・代謝障害・炎症の症状があるが、寒がりでまだ湿熱には至っていない場合。粘膜は蒼白または薄いピンク色。軽度の肝酵素の上昇やアルブミン低下、BUN・クレアチニンの上昇がみられる場合にも。

  • 二陳湯(にちんとう)

唾液が多く、食べたあとすぐに粘っこい透明な液を吐くことが多い場合。

  • 三仁湯(さんにんとう)

湿熱に使われる代表的な漢方薬。胃苓湯の症状と似ているが、さらに進行してイライラ、血尿、かゆみ、暑がる、口渇、舌が赤いなど熱の症状が出てきている場合に使用。さらに熱症状が顕著になってきた場合には四妙散がおすすめ。

  • 補中益気湯(ほちゅうえっきとう)

脾気虚の症状が目立つ場合に。太れない、食欲不振、貧血、下痢または便秘、腹部に力が入らないなどの症状がみられる。生まれつきの消化吸収障害や食物不耐症にも使用することがある。舌の色は薄いか、紫がかっていることが多い。

  • 六君子湯(りっくんしとう)

湿熱のために胃腸機能が弱り、食欲不振や貧血、全身性の衰弱が顕著な場合に。食欲を回復する作用が一番強い。

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参考文献
  1. Hart BL. CVC 2008 Highlights: Why Do Dogs and Cats Eat Grass? Veterinary Medicine. December 2008.
  2. Sueda KC, Hart BL, Cliff KD. Characterisation of plant eating in dogs. Applied Animal Behaviour Science. (2008) 111(1-2):120-132.
  3. Bjone SJ, Brown WY and Price IR. Grass eating patterns in the domestic dog, Canis familiaris. Recent Advances in Animal Nutrition in Australia. 16, 2007.
  4. Beaver BV. Grass eating by carnivores. Vet Med Small Anim Clin (1981) 76(7):968-9.
  5. Sueda KC, Hart BL, Cliff KD. Plant eating in domestic dogs (Canis familiaris): characterization and relationship to signalment, illness, and behavior problems. In: Mills D et al (eds). Current Issues and Research in Veterinary Behavioral Medicine, West Lafayette, Purdue University Press (2005) pp. 230-231.
  6. McKenzie SJ, Brown WY, Price IR. Reduction in grass eating behaviours in the domestic dog, Canis familiaris, in response to a mild gastrointestinal disturbance. Applied Animal Behaviour Science (2010) 123 (1-2): 51-55.