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論文紹介 | 豹の遺伝子配列の解読からわかったネコ科動物の食性

2016/12/30

豹の遺伝子配列の解読からわかったネコ科動物の食性

野生のネコ科動物の遺伝子を解析・比較することで、私たちが飼っている家猫にどんな食事が合うのかが見えてくる面白い論文の紹介です。

論文情報

Soonok Kim, Yun Sung Cho, Hak-Min Kim et al. Comparison of three dietary groups in mammals: carnivore, omnivore, and herbivore genome analyses with a new leopard assembly. Genome Biology 2016 (17) 211

論文リンク

本論文では、アムールヒョウの遺伝子配列の解読を行い、他の肉食動物や雑食動物、草食動物の遺伝子と比較することで、肉食動物の食性に関する遺伝子の進化の様子が明らかにされています。そのうち、家猫を含むネコ科動物に共通して認められた遺伝子の変化について以下にまとめてみました。

比較が行われている動物種
  • 肉食動物・・・ネコ科動物(イエネコ・トラ・チーター・ライオン・ヒョウ)・ホッキョクグマ・シャチ・タスマニアデビル

 

  • 雑食動物・・・ヒト・マウス・イヌ・ブタ・オポッサム

 

  • 草食動物・・・パンダ・ウシ・ウマ・ウサギ・ゾウ

炭水化物の消化に関わる多数の遺伝子が失われる

まずは予想された通り、ネコ科動物では、雑食動物や草食動物に比べて、アミラーゼを始めとするデンプンやショ糖などの炭水化物の消化や代謝に関わる遺伝子数が大幅に減少していることがわかりました。逆に、炭水化物を体内で合成する遺伝子は高度に保存されており、ネコ科動物では食事中の炭水化物の役割が小さいことが改めて確認される結果となっています。

 

また、血中のブドウ糖の取り込みや貯蔵に関わるグルコキナーゼの調節を行う蛋白質(GKRP)の遺伝子が偽遺伝子化(=機能喪失)していることも明らかに。炭水化物を食べないネコ科動物では、血中のブドウ糖を取り除く仕組みが不必要なのではないかという説を裏付けています。グルコキナーゼは、炭水化物を食べる哺乳類において血糖センサーとして働いている酵素で、人ではグルコキナーゼやGKRPの遺伝子変異は糖尿病と関連していることが知られています。

 

さらに、草食動物と比べると、植物中の毒素を中和する酵素の遺伝子も減少。植物を食べないネコ科動物には進化の上で不必要な遺伝子だったことがわかります。

丈夫な骨格と敏捷な動きのための進化

瞬発力、丈夫な歯や骨、そして、発達した筋肉は、動物を捕獲して食べる肉食動物が生きていく上で重要な役割を果たしています。今回の論文では、これらの身体機能に重要な遺伝子についても、ネコ科動物に特異的な変化が多数見つかりました。

  • 筋肉の収縮や動きに重要な役割を持つミオシン・アクチン遺伝子群が増幅

 

  • 雑食動物や草食動物にはない骨の発達修復に重要な役割を果たす遺伝子(DMP1とTPN)を持つ

 

  • ビタミンAアラキドン酸の体内分解に必要な遺伝子数が減少。ビタミンAは骨や歯の再石灰化を促し、アラキドン酸は骨格筋の修復と成長に必要とされることから、これらの分解を抑制して体内濃度を長く保つことで、歯・骨・筋肉を維持している可能性を示唆。

 

  • 光刺激受容、シナプス伝達、神経インパルス伝達、軸索誘導経路など、敏捷性に関わる遺伝子を高度に保存。

肉食によるがんの発生を抑制?

人では肉中心の食生活によって、がんの発生リスクが上昇することが報告されていますが、このメカニズムの一つとして、肉に豊富に含まれるヘムが活性酸素の生成を促し、DNAを損傷させる可能性が考えられています。

 

今回の研究から、ネコ科動物では、DNA損傷に対する反応、DNA修復、タンパク質の消化吸収に関する遺伝子に変異があることも明らかになりました。つまり、ネコ科動物では、雑食動物とは異なるタンパク質の消化吸収経路を持ち、肉食によるDNAのダメージから抑制する仕組みが備わっている可能性があるということです。この仕組みが解明されれば、がんの予防や治療に生かせるかもしれません。

ネコ科の動物は遺伝的多様性が低い

最後に、ネコ科動物の遺伝子は多様性が低いことがわかったことも今回の研究の重要点です。このことは特に大型のネコ科動物において顕著で、草食動物や雑食動物ではこのような現象が見られないことから、肉食という食性が進化の上で高い淘汰圧となってきたことがうかがえます。

 

つまり、肉食動物として生きていくために進化してきたネコ科動物は、栄養学的な適応力が低いということを意味しており、著者はプレスリリースでこのことを例えて「牛が肉を食べてもそれほど健康に大きな影響はないが、肉を食べて生きるよう進化してきたヒョウに草[だけ]を与えるとすぐに死んでしまう」と表現しています。

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