獣医師による手作り食・自然療法ガイド

膵炎の食事療法

 

必須脂肪酸について

犬と猫が毎日の食事で必ず摂取する必要がある脂肪酸には、リノール酸アラキドン酸(猫のみ)、オメガ3脂肪酸があります。

リノール酸

膵炎の症状があるうちは与えなくても大丈夫です。低脂肪のお肉や魚にも少量含まれているので完全に欠乏することはありません。膵炎の症状が落ち着いたら、最低必要な量のリノール酸を鶏肉や卵、植物油で補ってあげましょう。低脂肪の肉や魚を使っている場合は、必要量のリノール酸を足しても脂質量が15%を超えることはありません。

うちのコに合うオイルはどれ?(植物油編)

アラキドン酸(猫)

アラキドン酸は肉や魚に十分量が含まれるので不足することはありません。

オメガ3脂肪酸

膵炎では脂質をなるべく抑える必要がありますが、オメガ3脂肪酸は例外です。他の脂質とは異なり、炎症を抑制するよう働き、膵炎の引き金になる高脂血症も抑えられる場合があります。膵炎の治療中でもしっかり与えましょう。

推奨量(DHAとEPAを合わせた量で)

犬 体重5 kgあたり100〜150 mg

猫 1頭あたり50〜150 mg

野菜・果物

食物繊維は脂質や糖質の吸収をゆるやかにし、血中の脂質濃度や血糖値が急上昇して膵炎が再発するのを防いでくれます。また、腸運動を刺激するため、食欲低下時に起こりやすい腸の萎縮の予防にも役立ちます。糖分の少ない野菜や果物を積極的に取り入れましょう。

犬は食事全体の半分まで、猫は1〜2割程度まで足すことができます。

避けたい野菜・果物
  • じゃがいも、さつまいも、かぼちゃ、とうもろこしなどのでんぷん質が多いもの
  • 甘い果物
  • 犬猫に有毒なネギ類

サプリメント

膵炎では細胞や組織の酸化損傷を招くフリーラジカルが大量に発生し、炎症に油を注ぐ状態になっています。抗酸化・抗炎症作用のあるサプリメントを取り入れましょう。

ビタミンE

生体にとって一番大切で効果の高い抗酸化・抗炎症ビタミンです。脂溶性ビタミンであるため、サプリメントのほとんどはオイルカプセルの状態で販売されていますが、猫や小型犬では1〜2滴、大型犬でも小さめのカプセルが1粒あれば十分な量が補えるため、脂質量にはそれほど影響しません。

与える量(1日量)

猫・小型犬 25 IU

中型犬 50〜100IU

大型犬 100〜200IU

ビタミンEは体内でセレン・グルタチオン・ビタミンC・ベータカロテンと助け合っています。これらの成分を食事でしっかりと与えていればサプリメントで与えるビタミンEの量を減らすことができます。

  1. ビタミンC:ブロッコリー、芽キャベツ、ピーマンなどの緑黄色野菜
  2. セレン:腎臓肉、マグロ赤身、骨
  3. 含硫アミノ酸(グルタチオンのもと):肉、魚
  4. ベータカロテン:にんじん、ケール、パセリなどの緑黄色野菜

ビタミンEやビタミンCなどの抗酸化成分は慢性膵炎で起こりやすい膵臓組織の線維化も防ぐと考えられています。

 

食欲にムラがあり食事で抗酸化成分をしっかり補えない場合は、病院でN-アセチルシステイン(グルタチオンの前駆物質)、亜鉛セレンビタミンCと合わせて注射や点滴で投与してもらいましょう。

オメガ3脂肪酸

上記を参照。

プロバイオティクス

膵炎では、膵消化酵素の変化、消化管運動の低下、脂溶性ビタミンの吸収障害、胆道への炎症の波及といったさまざまな原因により 腸内細菌叢のバランスが崩れやすいため、悪玉菌が異常増殖しやすくなっています。

消化酵素や蠕動運動は悪玉菌を追い出すのに役立っています。

消化酵素・膵臓肉

タンパク質、炭水化物、脂質を分解する消化酵素製剤や手に入る場合は膵臓肉(脂質10〜20%)を食事と一緒に与えることで膵臓の働きをサポートすることができます。

本格派カレーによく使われるクミンは抗酸化作用をもち、複数の消化酵素の活性を助けることが知られています。

ビタミンB群

腸炎を起こしている場合や食欲不振が長く続く場合は、ビタミンB製剤の注射投与が必要になることがあります。

おすすめのハーブ・スパイス

  • オレンジピール・しょうが(食欲を刺激)
  • ダンデライオン・アブラナ科の野菜(炎症性サイトカインを抑制・抗酸化)
  • クミン(消化酵素の活性を助ける)

炭水化物

でんぷん質の多い炭水化物や精白された穀類は食後に血糖値を急上昇させ、膵臓からのインスリンの分泌を促します。血中の糖分やインスリン濃度が高い状態が毎日のように続くと、体内の細胞がインスリンに反応しなくなる「インスリン抵抗性」と呼ばれるいわゆるメタボ状態を引き起こし、これが膵炎の発症に大きく関与しています。実際に肥満、糖尿病、副腎皮質機能亢進症などのインスリン抵抗性が深く関わっている病気をもつ犬猫で膵炎が起こりやすくなっています。

膵炎になりやすい体質を根本から変えて、悪化や再発を防ぐには、低糖質の食事でインスリン抵抗性を改善していく必要があります。

穀類や芋類などの炭水化物食品はまったく与えないか、できるだけ控えるようにしましょう。

超低脂肪の肉や魚でも膵炎の症状を抑えることができない場合や他の併発病のためにタンパク質(肉・魚)の量を控えなければならない場合は、血糖値をあげにくく、インスリン分泌を刺激しないGI値の低い炭水化物食品を利用します。例えば、精白された白米や小麦粉ではなく玄米や全粒小麦を、粉ではなく全粒を選ぶとGI値が低くなります。

GI値低めの炭水化物食品の例

玄米(短粒種より長粒種の方が低い)

全粒ライ麦・丸麦・ソルガム・そばの実・キノア

★グルテンフリー ★レクチンフリー

低脂肪・低炭水化物のおやつ

膵炎を起こすと体重が激減してしまうため、食欲が回復してくると体重をなんとか戻そうと食事量を増やしがちになります。でも、膵炎の治療と再発予防では、肥満を防止することもとても重要です。病気になる前の体重ではなく、理想体重の目安をかかりつけの病院で決めてもらい、その体重を目標にしましょう。

体重管理のためにはおやつは控えめがおすすめですが(食事全体の1割未満)、食欲が出てきたのにおやつを我慢させるだけの暮らしもつまらないですよね。状態が完全に落ち着いたら、低脂肪・低炭水化物の食材を少しずつ取り入れていきましょう。

  • えび・ホタテ・かに・イカ・貝類
  • 砂肝・トライプ
  • ブロッコリー、アスパラ、カリフラワーなどの抗炎症・抗酸化成分が豊富な野菜
  • 果物が好きな場合は、糖分が少なめのベリー類を。

 

本食事療法ガイドに掲載している情報は、臨床経験と以下の文献に基づいて書かれています。

ペットのメタボについて考えよう
1 2