獣医師による手作り食・自然療法ガイド

精油に関する注意事項

特定の化学成分が濃縮されている精油(エッセンシャルオイル)は、誤飲や誤用による事故が多く報告されています。特に猫ちゃんは肝臓における化学物質の解毒代謝の仕組みが人や犬とは大きく異なっており、少量でも中毒を起こしやすくなっています。1回の使用では問題が生じなくても、繰り返し使用するうちに精油成分が体内に蓄積し、毒性を示すようになることもあります。個体差も大きく、どのようなものでも確実に安全といいきることができないのが精油です。

ご自宅で安全に精油を使うには

  1. 誤飲事故を防ぐため、安全な場所に保管しましょう。
  2. 直接口に入れたり、食事に混ぜるのはやめましょう。皮膚に使うときも、直接ではなく、薄めてから舐められないところに使うようにします。
  3. ディフューザーは犬猫が届かないところで使用し、ドアを開けておいて犬や猫がいつでも部屋から出ていけるようにしましょう。犬猫の嗅覚は人よりもずっと敏感です。精油成分は、呼吸を通しても体の中に入ることができます。
  4. 初めての精油を使うときには、軽くにおいを嗅がせて反応をみたり、希釈して皮膚のパッチテストを行なってみましょう。嫌がる様子を見せたり、皮膚が赤くなった場合は、使用しないようにします。
  5. 妊娠中はなるべく使用を避けましょう。
  6. 精油入りのペット製品を購入するときは、次の点に注意しましょう。
  • 精油の種類:中毒が起きやすい精油が使われていないか確認しましょう。由来植物の名前もきちんと書かれていれば安心です。
  • 精油の濃度:毒性が強い精油でも薄めてあれば安全に使える場合があります。逆に安全な精油でも濃度が濃ければ中毒を起こすことがあります。
  • 製品サイトや製品説明書に掲載されている「安全性」は信用できる場合と、信用できない場合があります。内部の人間でない限り、実情はわからないのが現実です。不安を感じたら製造会社に問い合わせてみましょう。
  • 精油以外の成分や添加物もチェックしましょう。副作用が生じたとしても精油が原因とは限りません。
  • 流涙
  • 皮膚の赤み、湿疹
  • 流涎(よだれ)、嘔吐、下痢、消化管潰瘍
  • 落ち着かない、ふらつき、脱力、元気消失、食欲不振
  • 流涎(よだれ)、ふるえ、けいれん、尿失禁、呼吸困難などの神経症状
  • 急性腎不全
  • 急性肝炎
  • 急性心不全
誤飲・誤用による死亡事故も起きています…

  • 1〜2滴の場合は、様子をみましょう。必ず中毒を起こすとは限りません。猫ちゃんの場合は特に注意して観察してあげてください。
  • 流涎(よだれ)などの症状がみられる場合や大量摂取した場合はすぐに病院に連れて行きましょう。早いうちに嘔吐させたり胃洗浄を行えば、中毒を防ぐことができます。

注意が必要な精油

次の精油は、特に中毒が起こりやすいので注意しましょう。

名称 説明
ウィンターグリーン
Gaultheria procumbens
サリチル酸メチルに分解される化合物を含む。犬猫はサリチル酸(アスピリン)に対する耐性が低い。特に猫で注意が必要。
カンファー・カンフル
Cinnamomum camphora
精油よりも、タイガーバーム、ヴィックスヴェポラッブなどの誤用・誤飲で中毒が起こることが多い。経皮、経口のいずれでも速やかに吸収されて中毒を起こすことがある。精油では成人・小児で嘔吐、腹痛、発作、中枢抑制(呼吸抑制、昏睡)、肝毒性、神経毒性が報告されている。
サッサフラス
Sassafras albidum
発がん性物質があるサフロールという物質を含む。
シトラス(柑橘系) 主に猫 流涎、嘔吐、下痢、ふるえ、運動失調、起立不能、昏睡、死亡などの事故が報告されている。光過敏症(皮膚炎)が起こる可能性がある。レモン、グレープフルーツ、ライム、オレンジ、ベルガモットなど。
ティーツリー
Malaleuca alternifolia
猫では、経口で低体温症、運動失調、脱水、ふるえ、昏睡、肝酵素の上昇、死亡などが報告されている。犬では経皮で後肢麻痺、運動失調、元気消失などが報告されている。
ペニローヤル
Mentha pulegium
Hedeoma pulegiodes
肝毒性・肺毒性がある物質を含む。犬において経皮使用で嘔吐、下痢、喀血を起こし、死亡した事例が報告されている。
ローズマリー
Rosemarinus officinalis
犬でてんかん発作を起こすことが報告されている。精油そのものが発作を誘発するのではなく、てんかんの持病を持つ犬で発作の閾値を下げ、発作が起こりやすくなると考えられている。生の食用ハーブではこのような問題はない。
ワームウッド
Artemisia absinthium
防虫目的に使用されることがあるが、大量摂取や誤飲、長期使用で肝臓、腎臓、神経系を障害するので注意が必要。同じアルテミシア属のタラゴン(A. dracunculus)ホワイトワームウッド(A. herba-alba)・ツリーワームウッド(A. arborescens)・サザンウッド(A. abrotanum)にも注意。

実験動物や人での経験から注意が必要と考えられる精油

  • カラムス Acorus calamus var. angustatus
  • クローブリーフ Syzygium aromaticum
  • サマーセイバリー Satureja hortensis
  • サビナ Juniperus sabina
  • スイートバーチ Betula lenta
  • タンジー Tanacetum vulgare
  • ニオイヒバ Thuja occidentalis
  • バジル Ocimum basilicum
  • ヒソップ Hyssopus officinalis
  • ビターアーモンド Prunus amygdalus var. amara
  • ブチュー Barosma betulina & crenulata
  • ベイスギ Thuja plicata
  • ボルドーリーフ Peumus boldus

誤飲・誤用・大量摂取で事故が報告されている精油

オレガノ、カモミール、キャラウェイ、ユーカリ、ゼラニウム、マジョラム、ミント、レモングラス、タイム、タラゴン、ベイローレル(Pimenta racemosa・Laurus nobilis)、ワームシードなど。量に気をつけて使うようにしましょう。

比較的安全に使える精油

次の精油は猫ちゃんでも比較的安全に使うことができます。ワンちゃんは量と使い方に気をつければ、これ以外の精油も使うことができます。

  • ラベンダー
  • シダーウッド
  • ゼラニウム
  • フランキンセンス
キーポイント
  • 安全なものでも直接使わない。必ず薄める。
  • 嫌がるものは無理に使わない。
漢方薬やハーブを使用する前の注意事項 犬と猫で注意が必要なハーブ・生薬 犬猫に毒性を示す植物 犬猫に与えてはいけない食物