獣医師による手作り食・自然療法ガイド

犬と猫で注意が必要なハーブ・生薬

犬と猫で報告されているハーブや漢方薬、サプリメントの使用事故・副作用の多くは、人用の製品の誤飲や不純物の混入、過剰投与が原因です。まれに添加物に反応を起こす場合もあります。でも、中にはハーブ自体に気をつけなくてはいけないことも。このページには、犬猫で注意が必要なハーブをまとめました。

注意が必要なハーブ

名称 説明
アルニカ 外用のみとし、舐める部位には使用しない。内服で使用したい場合は、低用量のホメオパシー製品を使うこと。誤飲により腹痛、嘔吐、下痢、肝不全など重篤な症状が現れる。
アロエ 鉢植えを使用する際に注意。葉の外皮とゲルの間の黄色〜オレンジ色の層(アロエラテックス)を誤って摂取すると嘔吐、下痢、腹痛を起こす。内部の透明なゼリー状の部分には問題はない。外用薬として葉を丸ごと使用する際には、犬・猫が舐めても大丈夫なようにゼリー部分のみを分離する。
エフェドラ 麻黄を参照。
カヴァカヴァ 犬猫でも抗不安、鎮痛、ストレス緩和など幅広い用途に使用されているアダプトジェン。ハーブティーやエキスの長期使用で皮膚炎や肝障害を起こす可能性があるため、乾燥ハーブのみを用いる。
カート
Khat
カフェイン様・アンフェタミン様物質を含み、アラビア半島やアフリカで嗜好飲料として利用される。肝毒性がある物質も分離されている。
ガラナ コーヒー豆より多いカフェインを含み、人のソフトドリンクやダイエット剤に使用されていた。カフェインは犬猫では禁忌。犬ではガラナとエフェドラを配合した人用のダイエットサプリメントの誤飲で死亡事故が起きている。
コンフリー ハーブティーとして流行していた時期があったが、肝障害を起こすことがわかり販売が禁止されるようになった。観賞用、牧草用として栽培していたものが野生化していることがある。外用では創傷治癒を促進。
セントジョーンズワート
セイヨウオトギリ
抗うつ作用のある人用のハーブとして人気。セロトニンの再取り込みを阻害することで抗不安、鎮痛などの効果をもたらすほか、抗ウイルス作用があることも報告されている。犬の椎間板ヘルニア、猫の抜爪手術後の疼痛緩和、FIV感染症、猫の知覚過敏などに経験的に使用されている。副作用として、血圧上昇、興奮、多眠などが生じることがある。高用量の長期投与で光過敏症が生じる可能性がある。他の抗不安剤や神経作用薬と併用しないこと。肝臓における薬物代謝を早めるため、薬物との併用や麻酔が必要な場合は注意が必要。
センナ 人の緩下剤として使用されている。消化管を刺激して蠕動運動を促進。長期の使用で自然な蠕動運動が起こらなくなるため、常用しないこと。犬猫の便秘の改善には食事内容などの基本を見直すことが重要。
チャパラール 解毒作用のあるハーブティーとして用いられていたが、肝毒性、発がん性、接触皮膚炎を起こすことから現在では使用されていない。
ホワイトウィローバーク
セイヨウシロヤナギ
サリチル酸誘導体(アスピリン)を含み、人で鎮痛薬の代わりに使われる人気のハーブ。犬猫はアスピリンやアスピリン類似物質に対する耐性が低いので自己判断での使用は行わない。特に猫はサリチル酸化合物の解毒スピードが遅いため、過剰摂取になりやすい。メドウスイートも同様にアスピリン様物質を含む。ハーブに含まれる個々の成分は濃度が低く吸収率も低いため、多少誤飲したくらいでは事故になることはあまりない。
プブレウルム 柴胡を参照。
藍藻類
シアノバクテリア
スピルリナの記事にも記載したが、藍藻類はミクロシスチンという肝毒性のある毒物を産生する。スピルリナを購入する際は、この量が一定量以下に管理されている製品を選ぶこと。
ロベリア ニコチン様の作用があり、人で去痰、喘息緩和、禁煙補助に使用されている。
ワームウッド
ニガヨモギ
防虫や駆虫に使われることがあるが、大量摂取や誤飲、長期使用で肝臓、腎臓、神経系を障害するので注意が必要。

このほか、人に危険だといわれているハーブは基本的に与えないようにしましょう。

漢方薬または漢方薬の成分で注意が必要なもの

漢方薬は複数の生薬を組み合わせたもので、1つ1つの生薬の量を最小限にしながら望ましい効果を最大限に発揮するようデザインされたものです。基本的には高用量または長期の投与を行わない限り問題となることはありません。次の生薬を単独で使用する際には気をつけましょう。

単独での高用量または長期の投与に注意

名称 説明
麻黄(まおう)
Ma Huang
エフェドラ
交感神経刺激作用があるエフェドリン・プソイドエフェドリンを含む。気管支拡張作用があるため他の治療や漢方薬に反応を示さない猫喘息などに麻黄を含む漢方薬が使用されることがある。血圧や心拍数を上昇させる、興奮しやすくなる、不眠などの症状が現れやすいため、麻黄や麻黄を含む漢方薬の使用は必ず専門医の指示のもとで行い、自己判断での使用は行わないこと。
附子(ぶし)
Fu Zi
アコナイト
トリカブト
猛毒植物トリカブトから作られる生薬。現在では毒性軽減処理がされたものしか使われていないため、単独使用したり、投与量を間違えない限り問題は起こらないが、附子が主成分になっている漢方薬(烏頭湯など)を使用する際は投与量や投与期間に注意する。
柴胡(さいこ)
Chai Hu
ブプレウルム
抗炎症効果が高いため犬猫で臨床使用される漢方薬の多くに配合されているが、抗凝固作用があり、長期の単独使用で出血しやすくなる。柴胡を主成分とする漢方薬(小柴胡湯など)は数ヶ月単位の短期投与が原則。
甘草(かんぞう)
Gan Cao
リコリス
鎮咳、消化管潰瘍の緩和、鎮痛など非常に広い作用があるハーブ。甘草由来のグリチルレチン酸がコルチゾールの分解を抑制するため、高用量の長期使用で偽アルドステロン症(浮腫、体重増加、高血圧、低カリウム血症など)を起こす。副腎皮質機能亢進症の動物には使用しない。甘草は生薬同士の相互作用を調和する作用があるため非常に多くの漢方薬に配合されているが、通常は低用量なのでほとんど問題にはならない。ただし、甘草湯や芍薬甘草湯のように甘草を主成分とする漢方薬については注意が必要。
牽牛子(けんごし)
Qian Niu Zi
朝顔の種子。人では下剤として用いられてきた生薬だが毒性が強い。犬猫では使われることはない。
MEMO
西洋ハーブについては国によって製造・品質基準が異なりますが、漢方薬および漢方薬に使用される生薬は日本薬局方によって品質、純度、不純物等の基準が定められています。漢方薬を購入する際は成分名に「日局」マークがついているかどうかも一つの目安になります。中国産の漢方薬については、重金属(銅、水銀、ヒ素など)、農薬、薬物などの混入がときおり報告されているため、品質が信頼できる会社でない限り購入はおすすめしません。
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