獣医師による手作り食・自然療法ガイド

肝性脳症・高アンモニア血症になったら

肝性脳症は、肝臓の機能低下により肝臓の解毒能が低下して有毒物が蓄積したり、消化管内の有毒物が肝臓を通らずに全身循環に入り込み、脳神経に作用することで起こります。門脈体循環シャント、進行した肝障害、猫の肝リピドーシスなどで起こりやすくなっています。

アンモニアは肝臓病で血中に蓄積しやすい有毒物の一つで、診断や治療効果の判定の指標になります。他にも芳香族アミノ酸(AAA)、インドールなどの窒素化合物、胆汁酸、内因性のベンゾジアゼピン、GABA、フェノール、短鎖脂肪酸、メルカプタンなどが神経症状を起こすと考えられています。

有毒なアンモニアや窒素化合物はどこから?

肝臓病では主に次の経路で有害物質が生じます。

  1. 食事中のタンパク質:アミノ酸の分解時にアンモニアを生成。赤血球の成分であるヘムも分解時にアンモニアを生成するため、ヘム含量の多い赤肉で肝性脳症が起こりやすくなります。また、肝臓で代謝される芳香族アミノ酸(AAA)も肝機能の低下により蓄積し、脳で偽の神経伝達物質になり神経症状を起こすと考えられています。
  2. 消化管内:腸内細菌がアンモニアやインドール、メルカプタンを生成。慢性肝障害で起きやすい消化管内出血もヘムが放出される原因に。
  3. 筋肉:食事中のタンパク質やカロリーが不足すると筋肉の分解が起こり、アミノ酸がエネルギーとアンモニアに分解されます。体内のアンモニアの50%は筋肉内に貯蔵されるため、筋肉量が少なくなるとアンモニア濃度が上がりやすくなります。
  4. 血管シャント:本来なら肝臓に流れて解毒されるはずの血液が肝臓を通らず、全身に流れる血管に直接入ってしまう状態です。先天性(生まれつき)のものと、肝臓病により後天的に生じるものがあります。

病院で点滴やラクツロース、必要に応じて抗生物質などの投与を行いながら、食事療法の変更を行い、全方向から対策を行っていきましょう。

食事療法

肝胆疾患の食事療法または肝レスキュー食をベースに次の変更を行います。

Step 1
肝性脳症が生じたら

タンパク質の摂取量を一時的に制限します。

タンパク質量の目安

犬:体重 1 kg あたり 2.0〜2.5 g

猫:体重1 kg あたり3.3〜3.5 g

(注:肉や魚の量ではなくタンパク質の量)

  • または、最小必要量の70〜80%(犬)・90%(猫)を目安に。
  • おすすめのタンパク質源:白身魚、乳製品(カッテージチーズ)、豆腐、豆類。赤肉はヘムやAAAが多いので中止しましょう。少量のレバー(体重の0.1〜0.3%)はOKです。
猫ちゃんではタウリンとアルギニンが不足します。必ずサプリメントで補いましょう。1頭あたりの量:タウリン250〜500 mg/日・アルギニン250〜500 mg/1日2回。

Step 2
カロリーを増やす
  • 筋肉の分解を防ぐためにカロリーを増やしましょう。さつまいも、かぼちゃ、おかゆ、水分多めで炊いたキビ・アワ・ヒエなどの消化しやすい炭水化物がおすすめです。
  • 脂肪の消化に問題がない場合は、相性がよい植物油(オリーブオイル、アマニ油、MCTオイルなど)を少しずつ増やしていきましょう。特に糖尿病やがんなどで炭水化物の摂取量を抑えたい場合は、脂質を中心に増量するのがおすすめです。
  • 1回の食事量を少なくし1日の食事回数を多くすると、消化吸収しやすくなり、神経症状も起こしにくくなります。
Step 3
肝性脳症の症状がおさまったら
  • 症状が落ち着き、アンモニア濃度が下がってきたら、少しずつタンパク質量を増やしていきます。白身魚や乳製品の増量からはじめ、調子がよいようなら青魚、サーモン、鶏肉なども追加できます。
  • タンパク質量の長期の制限は、筋肉の消耗や低アルブミン血症を招き、肝性脳症が再発しやすくなります。肝性脳症を起こさない最大のタンパク質量を見つけるのが目標です。

アルブミンは腹水を防ぐだけでなく、有毒物質にも結合して脳に作用するのを防いでいます。
肝レスキュー食

サプリメント

食物繊維

食物繊維は腸管内のアンモニアを捕らえて排泄を促し、腸内pHを下げてアンモニアを産生する細菌の増殖を抑制します。

おすすめの食物繊維

ごぼう・アスパラガス・アーティチョーク・りんご

サイリウム:体重5 kg あたり 小さじ1/2〜1杯から


BCAA(分岐鎖アミノ酸)

分岐鎖アミノ酸であるバリン・ロイシン・イソロイシンは、肝臓で糖に変換されたり、筋肉や脂肪などの末梢組織でエネルギーに変換されて利用されます。肝性脳症を起こす末期の肝障害ではBCAAが枯渇状態になることがわかっています。BCAAは、筋肉のエネルギー源になるほか、肝硬変や酸化ストレスを緩和し、有害なミネラルの蓄積を防ぐと考えられています。

与える量

バリン:ロイシン:イソロイシン = 1:2:1 〜 1:4:1
の製品を選び体重5 kgあたり100〜300 mgを食事回数分に分けて与える

特に、炭水化物を食べないので肉の量を減らすことができない、赤肉を与えないと食欲を維持できないといった場合に重要です。タンパク質量をきちんと抑えられている場合は、必ず与える必要はありません。重度の場合は、静脈投与を。


ビタミンB群・ビタミンK

食欲がなく栄養不足が続いていた場合は、注射剤での補充が必要になります。

漢方薬・ハーブ

龍胆瀉肝湯(りゅうたんかんしゃとう)

けいれんや視力低下などの症状があり、舌が赤い、脈が早い、暑がる、発熱などの症状がある場合に。特に肝臓の炎症を鎮める効果が高いため、ゆっくりと進行した肝臓病よりも急性的に生じた炎症の激しい肝障害による神経症状に効果があります。体重 1 kg あたり 60〜75 mgを1日2回に分けて与えます。

慢性的な肝障害による神経症状には

慢性期の肝障害に使用される逍遥散や当帰芍薬散を使用しましょう。

詳しくはこちらから

オレゴングレープルート

肝臓と胆嚢の働きをサポート。特に脂肪に働きかけるハーブなので、猫の肝リピドーシスに。乾燥ハーブは体重1 kg あたり 25 mg を1日3回に分けて、チンキ剤(25〜50%)は体重1 kg あたり0.05〜0.2 mLを1日3回に分けて与える。

オレゴングレープが入ったホクセイ・フォーミュラは、解毒効果が高く、急性的に生じた犬と猫の肝性脳症に効果があります。適切な調剤が必要なため、有資格の自然療法医に処方してもらうようにしましょう。

漢方薬やハーブを使用する前の注意事項 用量・用法・上手な飲ませかた