獣医師による手作り食・自然療法ガイド

炭水化物ガイド

炭水化物は犬と猫の大敵!

がん、心臓病、糖尿病などの命に関わる深刻な病気から、関節炎、膀胱炎、アレルギーなど生活の質を下げる病気まで、犬猫の健康と寿命には炭水化物の存在が大きく関与しています。実際に、何らかの不調を抱えて病院にやってくる犬猫の多くは炭水化物食品の摂取量を減らすだけで状態が改善します。

これは、肉食動物として進化してきた犬と猫には、血中の糖分をうまく処理するための遺伝子があまり残されておらず、炭水化物の摂りすぎが炎症の原因になるため。目には見えない小さな炎症が時間の経過とともに次第に大きくなり、体の組織を傷つけ、細胞が腫瘍化したりするようになります。そのため、犬でも猫でも炭水化物食品の摂取量は一定未満に抑えるのがベスト。特にでんぷん質の多い穀類や芋類には気をつける必要があります。猫ちゃんはゼロにするくらいの勢いでOKです。

ペットのメタボについて考えよう

でも炭水化物が役立つ時もある・・・

すでに病気が進行している場合や遺伝子に突然変異をもつ品種では、炭水化物に頼らなければならないこともあります。どうせ炭水化物を与えなくてはいけないのなら、少しでも体によく目的にあったものを選んで味方につけましょう。

炭水化物が必要になる病気や体質

タンパク質や脂質の摂取を控えなくてはいけない病気では、代わりのエネルギー源として炭水化物が必要になることがあります。

脂質代謝障害

シュナウザー、ビーグルなどの一部の犬種や一部の猫では遺伝性の脂質代謝障害が知られています。脂質の消化吸収能力には問題ありませんが、血中の脂質濃度を調節する機能がうまく働かず、高脂血症(トリグリセリド・コレステロール・カイロミクロン濃度の上昇)による発作や膵炎を起こしやすくなっています。超低脂肪・低カロリーの肉や魚を使っても高脂血症が改善しない場合は、肉や魚の量を減らして、炭水化物食品で置き換える必要があります。食物繊維が豊富な全粒穀物や根菜類を選べば、脂質の吸収を抑えるのに役立つでしょう。

膵炎・膵外分泌不全

膵炎の治療中は脂質を控える必要があります。超低脂肪の肉や魚で症状がコントロールできない場合は、一部を炭水化物食品で置き換えます。ただし、膵炎の発症には炭水化物の摂りすぎによるインスリン抵抗性が関与していることが非常に多いため、インスリンの上昇を起こしにくい低GI値の炭水化物を選ぶのが理想的です。

膵外分泌不全は、膵臓が分泌する消化酵素が不足または欠乏する病気です。生まれつきや遺伝(シェパード、ラフコリーなど)、自己免疫性疾患の場合もありますし、膵炎のあとに生じることもあります。通常は、消化酵素製剤や膵臓肉を与えれば通常の食事で大丈夫ですが、まれに低脂肪食が必要になります。その場合は、消化性の良い炭水化物を利用するのが効果的。全粒穀物よりも芋類や柔らかめに炊いたごはん、きび類がよいでしょう。

注意
脂質量を抑えすぎると脂溶性ビタミンや必須脂肪酸の欠乏症が起ります。最低必要量を確保しながら症状を起こさない最大の脂質量を見つけるのがベスト。

重度の肝臓病や腎臓病、蛋白尿症

肝性脳症尿毒症、重度の蛋白尿では、タンパク質摂取量を減らす必要があります。タンパク質量やカロリーが不足すると、筋肉や臓器、血液、免疫系のタンパク質の分解が促進され、疾患がよけいに進行して悪液質を起こしやすくなるため、炭水化物や脂質できちんとカロリーを補充する必要があります。消化しやすい芋類やしっかり炊いた白米、きび類がいいでしょう。

まだ消化力が弱っていない初期の肝臓病では食物繊維が豊富な全粒穀物を選ぶと胆汁の新陳代謝に役立ちます。腎臓病の場合は、リン含量の少ない食品を選ぶことも大切です。

シスチン尿症

シスチン尿症は犬に多い遺伝性のアミノ酸代謝異常で、タンパク質の制限が必要な病気です。主食のタンパク質を減らさないといけない分、炭水化物や脂質でカロリーを補う必要があります。

そのほか

筋肉がつきにくい一部のトイ犬種では、炭水化物食品をゼロにすると、タンパク質をきちんと摂取していても筋肉の消耗が起こることがあります。食事の切り替え後にクレアチニンが急激に下がったら、要注意。タンパク質や脂質でカロリーをきちんと与えているのに進行する場合は、炭水化物食品を加えましょう。

炭水化物をゼロにすると便秘することもあります。野菜や根菜、サイリウムなどの植物性繊維や動物性繊維乳酸菌製剤で改善しない場合は、お芋やかぼちゃなどの炭水化物食品を試してみましょう。

重度の腸疾患、腸や胆嚢の切除後など、脂質の消化吸収障害が生じると思われる疾患でもカロリーを確保するために炭水化物が必要になることがあります。

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五行説では金タイプの子が炭水化物と相性がよく、土タイプの子は炭水化物ご法度です。

炭水化物食品の選び方

グルテンフリー・レクチンフリー

特に病気ではないけど体質的に炭水化物を必要とする場合は、炎症を起こしやすく、免疫系のバランスを崩しやすいグルテンレクチンが入っていない食品を選ぶと、長い目でみて健康に役立ちます。免疫系の病気や炎症性疾患がある場合もここから選びましょう。

  • さつまいも
  • 里芋・山芋・長芋
  • れんこん、ビーツ、セロリアック、パースニップ、かぶなどの根菜
  • ソルガム(パスタが便利)
  • ミレット(きび・あわ・ひえ)
  • タピオカ(キャッサバ)

GI値が低い(インスリン分泌を刺激しにくい)

グリセミック・インデックス(GI値)が低く、血糖値の上昇を起こしにくい炭水化物食品は、インスリン抵抗性が関与している糖尿病、膵炎、副腎皮質機能亢進症などの診断を受けた犬猫、メタボ・肥満になりやすいけれども、併発症や体質のために炭水化物をカットできない犬猫に向いています。

  • そばの実
  • 長粒種・野生種の米・玄米
  • キノア
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お米の場合は、長粒種や高アミロース米を選ぶとGI値がぐんと低くなります。

ビタミンや抗酸化成分が豊富

基本的に色の濃いものはビタミンや抗酸化効果のある色素が豊富です。赤紫色のビーツは翌日のおしっこやうんちの色が赤くなるので、血液と間違えてびっくりしないように。尿・便検査の結果には影響しません。

  • さつまいも
  • かぼちゃ
  • ビーツ(ビートルート)
  • 発芽玄米

食物繊維が豊富

精白度の低い全粒穀物を選ぶと食物繊維が豊富です。例えば、白米ではなく玄米を、普通のパスタではなく全粒小麦のパスタを選びます。

食物繊維の摂取だけが目的で、カロリーの補充が必要ない場合は、良質な繊維質を含む野菜(アスパラ・キャベツ・セロリなど)や根菜(ごぼう・れんこんなど)を選んでも。

食物繊維 (プレバイオティクス)

アレルギーを起こしにくい

どの炭水化物食品もアレルゲンになる可能性があります。ペットフードを食べていた子では、ペットフードに多用されている小麦粉、とうもろこし、米、かぼちゃ、じゃがいも、さつまいもに特に気をつけましょう。

アレルギーを起こしやすい体質を改善するには、グルテンフリー・レクチンフリーの食品がおすすめ。

与える量

健康な犬の場合は食事全体の3割未満、健康な猫の場合は1割未満に抑えましょう。調理後の目分量でOKです。

療法食の場合は、最低必要なタンパク質と脂質の量を確保しながら、補充したいカロリー量や症状、検査結果などに合わせて炭水化物食品を増やしていきます。多くの場合は、犬で6割未満、猫で3割未満で十分コントロールすることができます。

注意
炭水化物量を増やす場合は塩分が足りなくなるのでごく少量の岩塩を加えてあげましょう。

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よくある質問

なくても生きていけるからです

AAFCO・NRCが定める犬猫の栄養基準では炭水化物の必要量や推奨量は設定されていません。

犬と猫はタンパク質や脂質から必要な糖分を作り出すことができるため、これらの栄養素だけでカロリーがきちんと取れていれば炭水化物は必ずしも与える必要はありません。タンパク質や脂質は、不足すると健康に障害が生じるため、必要量や推奨量が設定されています。

必須栄養素ではなく、健康補助食品として考えるといいでしょう。

なりません

血糖値は下がりますが、正常範囲内で低めか正常範囲より少し低めで落ち着きます。これは、動物にはタンパク質や脂質から糖分を作る「糖新生」という仕組みが備わっているため。犬や猫は人よりもこの能力が高くなっています。

ただし、すでに糖尿病や肝臓病になっている場合は、この能力が落ちていることがあります。

手作り食が血液検査値に及ぼす影響
これには複数の理由があります。

まず、扱いやすくペットが好む形のドライフードを作るには炭水化物をバインダー(結合剤)として使う必要があります。いろいろな材料を一つにまとめる接着ボンドのような役割を果たしています。缶詰やパウチでは、とろみを出すのに使われていることがあります。

次に、穀類や豆類、芋類に比べると肉や魚は高価な材料です。消費者にとってはお買い得で、メーカーにとっては高い利益を生むためには原材料の価格をなるべく抑える必要があります。そのため、肉や魚をギリギリまで少なくし、炭水化物や脂質でカロリーを補い、その分足りなくなったタンパク質やアミノ酸を豆類や合成アミノ酸などで補って、栄養基準を満たすよう工夫されているのです。犬猫の健康を第一に考えているわけではないので、肥満対策や糖尿病対策用のフードでも、そもそもの原因の炭水化物を減らすのではなく、食物繊維を加えてカサ増ししたり、カルニチンなどのサプリメントを足してごまかしています。

他にも「すぐに使えるエネルギーを供給することで筋肉や臓器の消耗を防ぐ」「嗜好性をよくする」といったさまざまな理由をつけて穀物や芋類を主原料として使うことが正当化されています。

でも必ずしもペットフードが悪というわけではありません。最近では犬猫本来の食性に合わせたフードも開発されていますし、今ほど豊かではなく食糧難だった数十年前までは、ペットフードを安価に提供することで確かにたくさんの犬猫の命を救ったでしょう。発展途上国やシェルターでは今も低価格のペットフードが必要です。

また、ペットフード会社はペットフードから得る大きな利益を使って、犬猫の栄養を研究する施設を作り、大学よりも進んだ研究を行ったり、大学に研究資金を提供したりして、日々さまざまなデータを私たちに提供してくれています。

一つの面だけをみて善悪を判断することはできないことも知っておいてくださいね。

いいえ

まずはかかりつけの獣医師に相談して、なぜ太れないのか原因を探るのが先決です。単に運動量に対してカロリーが足りていないだけかもしれませんし、品種によっては太れないのが当たり前のこともあります。場合によっては消化器系や内臓、代謝系の病気が隠れていることもあるかもしれません。

太れない場合でも炭水化物量は猫で10%未満、犬で30%未満のバランスを維持しながら食事全体の量を増やしていくのが理想的です。肉食動物にとっては本来の食物ではない炭水化物や食物繊維の与えすぎは消化の負担になり、逆に胃腸機能を弱めて太れない原因になることがあります。

どんなに食事を与えてもどんどん痩せていく場合は、感染症や病気が潜んでいます。必ず病院に相談してください。