獣医師による手作り食・自然療法ガイド

手作り食が血液検査値に及ぼす影響

手作り食にしたら腎不全になった?

ペットフードから手作り食に切り替えると一部の血液検査値が変化することがあります。これを知らないと、手作り食が病気を引き起こしたのだと勘違いして慌てることに。でも検査項目の特徴や犬猫の生理学を少しだけ理解しておけば、実はまったく心配する必要がないということがわかるでしょう。かかりつけの獣医さんをあわてさせないために、飼い主の方に知っておいて欲しいことをまとめました。

血中尿素窒素(BUN)

BUNは、タンパク質が分解されてできる老廃物です。腎臓から排泄されるため、腎機能が低下すると血液検査のBUN値が上がります。

肉魚中心の手作り食に切り替えるとBUNの値が上昇することがあります。でも、これは腎臓の機能が落ちたためではなく、タンパク質の摂取量が増え、BUNの生成量が増えるためです

腎臓病で経過観察中の場合は、他の血液検査結果(SDMA)や尿検査結果、血圧などと合わせて総合的な判断を行う必要があります。

SDMAは食事の影響を受けにくい腎機能検査です。

BUNが低下した場合は、タンパク質不足かもしれません。また、BUNは肝臓で作られるため、肝障害の可能性も考えられます。

BUN について詳しく読む

クレアチニン(CRE)

クレアチニンは、筋肉に貯蔵されるエネルギー物質クレアチンリン酸が分解されてできる老廃物で、やはり腎臓から排泄されます。筋肉量が多い犬猫と腎臓の機能が低下している犬猫ではクレアチニン値が高くなります。

肉魚中心の手作り食を食べている犬猫では、ペットフードを食べている犬猫と比べて、クレアチニンの値が高くなる傾向がありますが、これには少なくとも2つの理由があります。

  1. お肉やお魚は”筋肉”。クレアチンリン酸やクレアチニンを豊富に含みます。

これらの物質は腸管から吸収されて血中に入るため、血液検査結果に反映されます。食事の影響を最小限にするには、朝食前に絶水せずに検査を行うといいでしょう。

ペットフードでは、”筋肉”食品は高価なため最低限の量しか使われておらず(代わりに大豆タンパクやコーングルテン、小麦グルテンなどの植物性たんぱく質が使用されています)、クレアチニン系物質の含量も低くなります。

  1. 肉魚中心の手作り食を食べている犬猫は筋肉量が多い。

2つ目の理由は、筋肉量が増えることです。特に肉中心の食事を与えている活発な大型犬は体が引き締まり、筋肉量が増え、マッスル・コンディション・スコア(MCS)が改善する傾向にあります。年齢や運動量などと合わせて判断を行う必要があります。

上昇幅は0.1〜0.5 mg/dLで 1 mg/dLを超えることはほとんどありませんが、もともとクレアチニンの基準範囲は狭いので(犬:0.5〜1.4 mg/dL* 猫:0.8〜2.0 mg/dL*)、正常範囲を上回ることもあります。ただし、血液検査の正常範囲というのは、タンパク質量が低いペットフードを食べている犬猫を基準に設定されたものであることも覚えておきましょう。つまり、ペットフードを食べている犬猫と手作り食を食べている犬猫では正常値の基準が異なるということです。

クレアチニンが低下するケースもあります。これは食事の切り替え後に体重が減った犬猫で多く認められます。ペットフードを食べている犬猫の多くは炭水化物の摂りすぎによる肥満状態ですから、急激な体重の低下やクレアチニンの低下が見られない限りは心配する必要はありません。クレアチニンが急激に下がったり、基準値よりも大きく下回る場合は、カロリー不足により筋肉がエネルギーとして消費され、筋肉萎縮が起こっている可能性があります。タンパク質だけでなく、炭水化物や脂肪の摂取量も合わせて食事全体の見直しを行いましょう。

*基準値は検査器によって異なるので検査を行った病院の数値を参考にしましょう。

クレアチニンについて詳しく読む

赤血球数(RBC)・ヘマトクリット・ヘモグロビン

手作り食を食べている犬猫では、赤血球数ヘマトクリット(赤血球が血液を占める割合。PCVと呼ばれる場合もあります。)、ヘモグロビン(酸素を運ぶ赤血球中の成分)も高くなることがありますが、これは好ましい変化であり、通常は正常範囲内におさまる程度の変動しか見られないため、気づかれることはほとんどありません。手作り食は、たんぱく質やヘムといった質のよい”血液の材料”を提供するとともに、生骨内臓肉を取り入れることで血液を作るのに必要な造血因子を壊すことなく補うことができます。

血糖値

小麦や米、デンプンなどの精製された炭水化物原料が多いペットフードから肉・魚中心の手作り食に切り替えると、血糖値が低下することがあります。通常は正常範囲内の下方で落ち着きます。こちらも糖尿病になるリスクが低下するという好ましい変化のため、臨床的な問題とされることはありません。正常範囲より低くなることもありますが(特に犬で食後に検査を行なった場合)、低血糖の症状が見られることはなく、逆に以前より活発になることがほとんど。手作り食を食べている犬猫では血糖値の正常範囲がペットフードを食べている犬猫よりも低いということです。犬も猫もタンパク質や脂質から糖を作り出すことができるため食事中の糖質が減っても心配する必要はありません。

すでに糖尿病の場合も、炭水化物量が少なく、ゆっくりと消化される手作り食に変更することで血糖値の上昇や変動を抑え、インスリンの投与量を減らしていくことができます。急に食事を切り替えず、少しずつ体を慣らしながら切り替えていくのがコツ。自然の食材には内因性インスリンの新陳代謝を助けるクロムやバナジウムなどのごく微量しか必要とされない元素も含まれています。


そのほかの血液検査項目では、影響が見られることはあまりありません。手作り食で一番気になるのはカルシウムの摂取量カルシウム・リンのバランスですが、こちらは血液検査に異常が現れるようになるまでに数年かかります。例えばカルシウムの給与量が不足していても、生体には骨に貯蔵されているカルシウムを引き出すことによって血液中のカルシウムを一定に保つ仕組みがあるため、血液検査では正常値のままです。したがって、血液検査で異常が現れた時には、すでに骨がスカスカ状態になっていることもあります。カルシウムを含め必要な栄養素の量は、普段から気をつけてあげるようにしましょう。

必要な栄養素の量をチェックする

不安になったら・・・

犬と猫はもともと肉食動物であることを思い出しましょう。お肉やお魚などの動物性食品は犬猫の体にもっとも適しており負担にならない食事です。