獣医師による手作り食・自然療法ガイド

卵を与えるとお腹がゆるくなるのはなぜ?

必須アミノ酸、ビタミンDコリンオメガ6脂肪酸など犬や猫の健康にうれしい栄養成分がたっぷり詰まった卵。野性時代の犬猫でも重要な栄養源であったと考えられ、自然食・自然療法派の獣医師や飼い主さんの間では健康管理に積極的に用いられている食材です。最近ではアトピーなどのアレルギー症状を抑制する効果も報告されており、療法食ペットフードの成分やトッピングとしても利用されることが増えています。

でも実際に愛犬や愛猫の食事に卵を混ぜるようになったらウンチが日に日に柔らかくなってしまって・・・という経験はありませんか?

食物アレルギーではないかと心配して来院されたり、卵を与えるのをやめてしまう飼い主さんが多くいらっしゃいますが、実際にはアレルギー以外の原因が関与していることがほとんどです。

今回はその原因と対策についてご紹介します。

1. 白身には消化酵素阻害剤やリゾチームが含まれる

お腹がゆるくなる一番の原因は、動物がタンパク質を消化するのに必要な酵素(トリプシンなど)の働きを阻害する物質。卵の白身に含まれています [1-5]。そのため、卵を1度にたくさん与えたり、生で与えたりすると消化不良を起こし、軟便や下痢が生じます[6] 。小型犬で一番起こりやすく、大型犬になると耐性がやや高くなります。

さらに、白身にはリゾチームという殺菌作用のある酵素も含まれています。リゾチームは非常に丈夫な構造を持っていて [7]、卵を食べた動物の胃の中でも消化されずに腸に到達し、腸内の善玉菌叢に作用すると考えられています。

与える量にもよりますが、いずれも2〜3日目くらいから徐々に便が柔らかくなることが多くなっています。

対策
  • 白身は加熱してから与える
  • 少量から始める

消化酵素阻害物質やリゾチームは加熱することで不活化できます [8]。白身が完全に白くなるまで調理しましょう。加熱して与えても軟便が治らない場合は与える量が多すぎるか他の原因が関与している可能性があります。

2. 脂質が多い

卵の脂肪分はおよそ10〜12% [9]。普通の犬猫なら問題のない範囲ですが、皮なし鶏胸肉(2%)など、低脂肪食を食べ慣れている場合に急に卵を与えるとお腹がゆるくなる場合があります。

また、膵外分泌不全や脂質代謝異常、胆嚢の疾患などがある場合は脂肪をうまく処理できないため注意が必要です。

対策
  • 少量から始めて少しずつ増やす
  • 脂肪を吸収してくれる食物繊維を一緒に与える

ちなみに他の食材の脂質量は牛赤肉10〜14%、豚赤肉3〜8%。皮なし鶏もも肉4〜5%。普段の食事と卵の脂質量を比較して見ましょう。

3. コリン含量が高い

神経系や細胞膜の正常な機能に欠かせないコリン。卵黄はコリンを豊富に含み、例えば 5 kgの犬の場合、卵を1日1/2〜1個与えるだけで十分なコリンを補うことができます。

ただし、コリンの与えすぎは軟便や下痢を起こすことが知られており、卵の過剰摂取でも軟便を引き起こす可能性は十分あります。

対策
  • 少量から始めて少しずつ増やす

4. 食物不耐性

卵自体を消化する能力が低下している場合も、消化不良による軟便を起こすことがあります。生まれつきの場合もありますし、ストレスや病気、胃腸炎、老化による全体的な消化力の低下に伴って見られることもあります。卵を食べてから比較的短時間で症状が現れます。

対策
  • 消化しやすいよう加熱してから与える
  • 消化酵素を一緒に与える
  • 症状が激しい場合は与えない

5. 食物アレルギー

卵アレルギーは犬猫の食物アレルギーの数パーセントを占めています [10]。消化不良や不耐性とは異なり、卵の成分に対する異常な免疫反応によって症状を起こすため、軟便のほか、嘔吐、下痢、皮膚のかゆみ、外耳炎などの症状がよく一緒に見られます。初めて卵を与えた時ではなく、しばらく前から卵を食べていた場合や過去に卵を食べたことがある場合がほとんどです。

最近では、血液検査よりも感度の高い唾液検査によってある程度の診断ができるようになりました。

対策
  • 与えない

アレルギーの場合は、卵を加熱調理しても予防することはできません。卵を与えないか、免疫療法によってアレルギーの治療を行う必要があります。

参考 食物アレルギーの治療現代医学と伝統医学を合わせたアプローチ

6. 食中毒

生卵にはサルモネラなどの細菌による食中毒の危険性があります。特に夏、室温や日の当たる場所に長時間放置しておくと細菌が繁殖し、食中毒を起こしやすくなります。

でも卵を生で食べる文化が定着している日本では、生卵による犬猫の食中毒が起こることは非常に稀です。

卵を食べた数時間後から激しい下痢や嘔吐、発熱などが認められ、すぐに病院で治療を行う必要があります。軽度の場合は軟便や食欲不振が数日続いた後、自然に回復する場合があります。

対策

アビジンについて

軟便や下痢の直接の原因とは考えられていませんが、卵の白身にはアビジンというタンパク質も含まれています。アビジンはビオチンに特異的に結合することで、ビオチンの吸収を阻害します。

ビオチンは生体内のさまざまな機能に必要な栄養素で、ビオチン欠乏症は生卵を長期間与えていた動物において1920年代に初めて観察されており、主に皮膚炎や脱毛などの皮膚症状が現れ、子犬や子猫では発育不良が認められます [11]。実験的にビオチン欠乏症を生じさせた場合には、末期症状として下痢が起こることが報告されています。

ただし、犬猫に必要なビオチンの多くは腸内細菌によって合成されることと、卵黄にはたくさんのビオチンが含まれていることを考えると、生の白身のみを長期間大量に与えない限り普段の生活でビオチン不足になることはまずありません。

気をつけるとしたら、抗生物質の投与中でしょう。抗生物質によって腸内細菌数も減少しますから、治療が長期になる場合はビオチンを多めに摂取する必要があります。

アビジンも卵白を加熱することで壊すことができます。

獣医師が勧める卵の上手な与え方

こうして卵の成分の一つ一つを見ていくと、与えない方がよいのではないかと思えて来るかもしれません。でも、卵にはそれを上回る利点もたくさんあります。

東洋医学では、卵は気と血液、体液のすべてを養ってくれる万能食材。体と心の両面に働きかけ元気にしてくれます。栄養学的に見ても、卵白は良質なタンパク質源で、必須アミノ酸のすべてが含まれているほか、卵黄にはビタミンA・D・B群、ヘム葉酸リノール酸と犬猫の毎日の健康に欠かせない栄養素がぎゅっと詰まっています。

白身を加熱することと、適量を守ることで軟便は簡単に防げるので、怖がらずに上手に取り入れていきましょう。
キーポイント
  • 白身を固くなるまで十分に調理して、酵素阻害剤、リゾチーム、アビジンを不活化する。乾燥卵はこれらのタンパク質が不活化されていないことが多いので使用しない。
  • ビタミンA・D、コリンビオチンオメガ6脂肪酸などを豊富に含み栄養価の高い黄身は生〜半熟がおすすめ。
  • 少量ずつから始める
  • 大量に与えない

1日の給与量の目安

  • 猫・小型犬・・・1/4〜1/2個
  • 中型〜大型犬・・・1〜2個

この量で、1日に必要なビタミンDコリンリノール酸の1/4〜全量を補うことができます。

最初は週1〜2回、少量(猫・小型犬は小さじ1・中型〜大型犬は大さじ1)から様子を見ながら与えます。10分以上ゆでた固ゆで卵を使うと、少量ずつ与えるのに便利で安全です。軟便にならなければ、少しずつ量や回数を増やしていき、生〜半熟の卵黄も試して見るとよいでしょう。

  1. Delezenne C and Pozerski E (1903) The trypsin inhibitory activity of chicken egg white. C.R. Seances Soc Biol Ses Fil 55: 935
  2. Lineweaver H and Murray CH (1947) Identification of the trypsin inhibitor of egg white with ovomucoid. J. Biol. Chem. 171: 565 – 581
  3. Matsushima K (1958) An undescribed trypsin inhibitor in egg white. Science 127: 1178 – 1179
  4. Kitamoto T, Nakashima M and Ikai A (1979) Hen egg white ovomacroglobulin has a proteinase inhibitory activity. J Biochem. 92: 1679 – 1682
  5. Fossum K and Whitaker JR (1968) Ficin and papain inhibitor from chicken egg white. Arch Biochem Biophys. 125: 367 – 375
  6. Bateman (1916) The digestibility and utilization of egg proteins. J Biol Chem. 26: 263-291.
  7. Venkataramani S, Truntzer J and Coleman DR (2013) Thermal stability of high concentration lysozyme across varying pH: A Fourier Transform Infrared study. J Pharm Bioallied Sci. 5: 148-153.
  8. Shin M, Han Y and Ahn K (2013) The Influence of the Time and Temperature of Heat Treatment on the Allergenicity of Egg White Proteins. Allergy Asthma Immunol Res. 5: 96-101.
  9. 文部科学省食品成分データベース
  10. Roudebush P (2013) Ingredients and foods associated with adverse reactions in dogs and cats. Vet Dermatol. 24: 293-4
  11. Hand MS, Thatcher CD, Remillard RL, Roudebush P, Novotny BJ (2010) Small animal clinical nutrition, 5th edn. Topeka, Kan.: Mark Morris Institute