獣医師による手作り食・自然療法ガイド

腎臓の健康を守るハーブとサプリメント

内と外から腎臓をサポート

腎臓は、老廃物を尿中に排泄したり、ホルモンを作るために 24 時間働き続けています。腎臓の疲弊を防ぐには、若い頃からのちょっとした日常のケアや食事の工夫で血を巡らせて十分な量の酸素や栄養を腎臓に届けるのが効果的。腎臓の機能が落ちやすくなるプレシニア期からシニア期に入ったらサプリメントやハーブの力を借りて積極的に病気を予防しましょう。

若いうちから習慣に!毎日できる腎臓ケア

急性から亜急性の腎臓病の場合は・・・
原因の適切な治療とともに、食事を室温程度のぬるめにし、運動制限を行って一時的に血行を抑制します。炎症を抑える効果が高い小柴胡湯や抗菌作用がある四妙散などの漢方薬がおすすめ。急性期を過ぎたら、本ページに掲載したハーブや日常のケアによって腎臓の回復を促しましょう。

基本のサプリメント

炎症は腎臓の大敵。まずは、基本的な抗炎症ビタミンや栄養素を毎日の食事できちんと与えましょう。

抗炎症作用や免疫調節作用により腎臓をサポート。腎臓病では必ず与えてほしい栄養素です。

EPADHAを合わせた量で:

  • 猫:1 頭あたり 50〜150 mg
  • 犬:体重 5 kgあたり 100〜150 mg

1 日 1〜2回に分けて食事に混ぜる。手術をする場合は 1 週間前から給与を中止する。

抗酸化栄養素の代表ビタミンC。犬も猫も体内で合成できますが、疾患時やストレス時、高齢期には必要量が合成量を上回るため、多めに与える必要があります。

  • 猫・小型犬:50〜125 mg
  • 中型犬:125〜250 mg
  • 大型犬:250〜500 mg
  • または食事 1 kg あたり 100〜200 mg

1日2〜3回に分けて食事に混ぜる。

水溶性のため、使われなかった分は尿と一緒に排泄され、体に蓄積することはありませんが、毎日補充してあげる必要があります。過剰投与によってお腹がゆるくなることがあるので注意しましょう。

酸化や炎症のダメージから細胞膜を守り、抵抗力を高めます。腎臓の健康が気になりだしたら、必要量よりも多めの治療用量を与えるようにしましょう。

  • 猫・小型犬:25 IU
  • 中型犬:50 IU
  • 大型犬:100 IU〜
  • または食事 1 kg あたり 400〜500 IU

1日1〜2回食事に混ぜて与える。

セレンは細胞を酸化ダメージから守るグルタチオンペルオキシダーゼを助けます。手作り食では不足しやすく、ペットフードでは過剰摂取に気をつける必要があります。

  • 猫・小型犬:5〜10 µg
  • 中型犬:10〜20 µg
  • 大型犬:20〜50 µg

1日1〜2回に分けて食事に混ぜる。

腎臓肉マメ)はセレンが豊富な食材。腎臓の健康のためには、サプリメントではなく、腎臓に必要な他の生理活性物質も含む腎臓肉を与えるのがおすすめです。体重 1 kg あたり 1 日 1〜5 gを目安に。

慢性腎臓病では尿中に排泄される水分が多くなり、水溶性ビタミンも一緒に失われます。いつもより多めに与えるようにしましょう。

Bコンプレックスとして:

  • 猫・小型犬:150 mg〜
  • 中型犬:300 mg〜
  • 大型犬:500 mg〜

ビタミンB群サプリは、製品によって含有量が大きく異なります。水溶性のため、多めに与えても問題はありませんが、犬猫用のものを見つけて、指示通りに与えてもよいでしょう。

ハーブ(生薬)

犬猫の腎臓の健康の維持や治療には、さまざまなハーブが使われています。炎症や酸化ダメージから腎臓を守る、腎臓への血流を促進する、腎臓の冷えを予防する、血液量や体液量を維持する、血管収縮を防いで腎臓の低酸素症や高血圧を緩和するなど、腎疾患の発生と進行に関わるさまざまな過程で局所的および全身性に働きかけます。


冬虫夏草(とうちゅうかそう)

コルディセプスとも呼ばれています。鱗翅目昆虫(蝶や蛾)の幼虫に寄生するキノコを粉末にしたもの。アダプトジェンの一種で、慢性炎症、糖尿病、薬物など、腎臓の組織を傷害するさまざまな因子から腎臓を保護する効果があります。

腎臓だけではなく、エネルギー(ATP)産生を促して運動能力を高める、免疫増強、抗酸化作用、抗腫瘍効果、老化に伴うさまざまな症状(頻尿、夜尿症、繁殖力の低下、記憶力・認知能力の低下など)を改善する、呼吸機能を高める、肝臓を保護するといったさまざまな作用が人・犬・猫・実験動物で報告されています。

用量
  • 体重 1 kg あたり菌糸体粉末として25〜75 mgを1日1〜2回。犬猫用の製品の場合は、使用説明書に従う。

急性感染がある場合には使用しないようにしましょう。野生の冬虫夏草は絶滅危惧種であるため、近縁種や人工培養物が使用されていることが多く、製品によって成分や品質が大きく異なることが報告されています。品質が信頼できる会社から購入するようにましょう。

また、熱産生を促す作用があるため、暑がりの症状が気になる場合は、冬虫夏草だでけなく、霊芝やマイタケなど、他のキノコを数種類合わせたサプリメントがおすすめです。


霊芝(れいし)

特に猫ちゃんにおすすめなのが霊芝です。炎症、抗がん剤、糖尿病、心不全、高血圧などの悪影響から腎臓を保護する効果があります。

そのほかにも、高齢期の弱り(筋力の低下、心不全など)の改善、FIV・FIP・FeLV感染猫の免疫力の強化、抗腫瘍作用、虚弱体質の犬猫の強壮作用など、幅広い効果があり、暑がりさんにも使えるハーブです。短気で特に夜間に落ち着かない猫ちゃんにもおすすめです。もちろんワンちゃんにも使うことができます。

用量
  • 乾燥粉末の場合は25〜120 mgを1日2回、乾燥濃縮粉末の場合は10〜25 mgを1日2回、チンキ剤の場合は2〜5滴を1日3回与える(いずれも体重1 kgあたりの量)。犬猫用の製品の場合は、使用説明書に従う。

その他のハーブ
ハーブ 適応例・給与量 おすすめ度
地黄 腎臓への親和性が高く、慢性腎臓病に最も広く使われる。腎臓の血流を改善し、腎虚血や腎高血圧、線維化、蛋白尿を緩和することで腎臓病の進行を抑制。単剤よりも複数の生薬を含む六味地黄丸等の漢方薬として利用した方が効果が高い。急性腎臓病にはあまり効果はない。 ★★★★
アストラガルス
(オウギ)
酸化ダメージや線維化を緩和して腎臓病の進行を抑制し、慢性腎臓病における貧血や免疫力の低下を改善。人では自己免疫性の腎疾患にも使用される。オウギ末として体重1 kgあたり100 mgを1日3回。妊娠中、アレルギーには使用しない。地黄や当帰、三七人参と組み合わせて使われることがある。 ★★★★
ナハカノコソウ ACE阻害作用がある。犬の慢性腎臓病において 1 頭あたり500 mgの投与でエナラプリルと同等のクレアチニンBUN・リン・尿蛋白・血圧の降下作用が認められたという報告がある。 ★★★
アシュワガンダ アダプトジェンとして、ミトコンドリアを酸化から守りストレスに強い体を作る。活発に活動している腎臓はミトコンドリアが多い。体重 1 kgあたり乾燥ハーブ 50 mg を 1 日 3 回。 ★★
オタネニンジン 高麗人参、朝鮮人参とも呼ばれる。急性炎症から腎臓を保護し、脱水を緩和する作用がある。血糖値を下げる効果があるため、糖尿病を併発している場合にも使用される。体重 1 kg あたり25〜300 mgを 1 日 2〜3 回に分けて与える。妊娠中、便秘、高血圧には使用しない。 ★★

薬膳食材

腎臓の健康を守るには腎臓に必要な生理活性物質を含む腎臓肉が効果的です。これらの生理活性物質は、ペットフードやサプリメントでは補うことができません。例えば、腎臓は赤血球の産生を促すエリスロポエチンというホルモンを産生しており、腎臓肉の給与によって高齢期や慢性腎臓病の貧血を予防・改善することができます。

そのほかにも、粘膜を潤す効果があるため、ドライアイ(目やに・涙やけ)、便秘、発咳など、腎臓とは一見して関係のなさそうな症状が改善することもあります。

ただし、与え過ぎは禁物。腎臓は排泄器官でもあるため、本来なら尿中に排泄されるべき老廃物も含んでいます。治療ではなく、日常の食生活に用いる場合は「体重 1 kg あたり 1 日 1〜5 g」の推奨量を守って与えるようにしましょう。

腎臓を温める

  • 腎臓肉マメ
  • ラム肉・鹿肉・ヤギ肉・鶏肉
  • タラ・カレイ・ロブスター・エビ・ムール貝
  • バジル・ローズマリー・フェネルシード・フェヌグリークなど

腎臓を潤す

  • 腎臓肉マメ
  • 豚肉・鴨肉・卵
  • 牡蠣・スズキ・カツオ
  • アスパラガスなど

腎臓を冷やす(急性炎症に)

  • あさり・はまぐり
  • かに
豆知識
後ろ足の肉球とかかとには腎臓につながるツボがあります。ときどき揉んであげてね。
  • 動物病院で実際に処方されている量を掲載しています。一般的には非常に安全な量ですが、新しいサプリの与え始めには、まれにお腹がゆるくなる等の症状が現れることがあります。症状が続く場合は量を減らしてください。量を減らしても症状が続く場合は中止しましょう。溶解剤や添加物など、サプリに含まれている有効成分以外の成分も確認する必要があります。
漢方薬やハーブを使用する前の注意事項
Paw1
バイオアベイラビリティ
サプリメントの吸収率は、サプリメントの品質や賦形剤の影響を受けるため、与えた量すべてが吸収されるわけではありません。推奨量よりやや多めに与えるとよいでしょう。通常は、食事と一緒に与えると吸収されやすくなります。
Paw2
添加物
キシリトール、砂糖などの甘味料、ステアリン酸マグネシウム、パラベンなどの添加物が使用されていないか確認しましょう。
Paw3
アレルギー
食物アレルギーや不耐性がある場合、有効成分だけではなく添加物もチェックしましょう。犬猫用のサプリメントには味付けに牛肉・鶏肉・酵母エキス、乳糖などがよく使用されています。そのほかにも、フィラーとして米粉やトウモロコシ澱粉、脱脂粉乳、ソフトゲルカプセルに豚や牛、魚由来のゼラチンなどが使われていることがあります。
Paw4
油脂系のサプリ
植物油、魚油(オメガ3・6脂肪酸)、肝油(ビタミンA・D)、ビタミンEなどのオイル系のサプリの与え始めに、お腹がゆるくなることがあります。症状が続く場合は量を減らしましょう。
Paw5
カプセル・錠剤
カプセルを残してしまう子は、中身を出して食事に混ぜましょう。錠剤は小さくカットします。液体カプセルの場合は、先端をカットして中味だけ与えます。室温に数時間置いておくと吸湿して柔らかくなり、切りやすくなります。
Paw6
猫ちゃん
味にうるさい猫ちゃんは食事にサプリを混ぜると食事自体を嫌うようになることがあります。その場合は、食後に別に与えましょう。おやつやスープと混ぜたり、口に直接入れて与えます。喉にカプセルや錠剤がくっつくことがあるので、投与後にシリンジなどで水を飲ませてあげましょう。