獣医師による手作り食・自然療法ガイド

そのちょっとした不調は冷たい食事のせいかも?温かい食事で愛犬と愛猫の健康を守りましょう

食事を温めてから与える − このとてもシンプルな習慣が、犬猫の健康に大きなプラス効果をもたらすことは、どんなに強調しても足りないくらい大切なことです。

その一番の理由はもちろん、食べ物が一番消化しやすい状態になるということ。食物に含まれる栄養成分をあますことなく利用できます。

犬猫の多くは、口の中で食べ物をほとんど咀嚼することなく飲み込みます。人間のように食べ物が柔らかく小さくなるまで噛むことはありません。

口の中で温められることなく胃に直行した冷たい食べ物は胃を冷やし、消化に必要な胃酸や消化酵素の産生・分泌を抑制します。胃の細胞が胃酸や消化酵素を作り、胃の中に放出するという作業は、体温より少し温かい温度で一番効率がよくなるのです。

冷えによって消化機能が落ちると、食物がいつまでも胃のなかに停滞し、不快感や嘔吐、口臭の原因になります。また、胃で十分に消化されなかった食べ物は、腸に移動したあとも消化吸収されにくく、そのまま排泄されるか、悪玉菌のエサになり、便秘、下痢、おなら、便の悪臭などを生じます。悪玉菌が増えると、今度は有害物質が作り出され、腸炎や腸漏れ症候群(リーキーガット)を起こして全身にさまざまな悪影響を及ぼします。

もう一つ重要な点は、消化機能が落ちると、糖分ばかりが吸収されて、犬猫に必要なビタミンやミネラル、アミノ酸などが不足しやすくなるということでしょう。ペットの肥満や糖尿病などの生活習慣病は、一般的に炭水化物の量が多くカロリー密度の高いペットフードが原因であることが多いのですが、胃腸の冷えによる栄養障害が隠れている場合も非常に多くみかけられます。

そして、冷たくなるのは胃だけではありません。冷たい食べ物は体全体の温度を下げるため、血行が悪くなり、体の臓器が十分な酸素や栄養分を受け取れなくなります。この状態が長く続くと、代謝や免疫、内分泌系、内臓機能の低下により、さまざまな病気を引き起こします。

温かい食事の利点

  • 胃腸機能を助けて食べ物を消化・吸収しやすくする
  • 体を温めて、体全体の機能を促進する
  • 未消化の食べ物を減らして悪玉菌の増殖を抑制
  • 風味が増し、嗜好性が高まる
  • 本来、狩りをして温かい獲物を食べていた肉食動物としての本能を満足させる

どのくらいの温度が最適?

犬猫の体温と同じくらいの温度がよいでしょう。手で触ってみて、温かいと感じる温度です。犬の体温は37~39℃、猫の体温は38~39℃です。

夏は少しぬるめに、室温程度がおすすめ。

暑がりな犬猫(冬の方が元気がいい、夏になると食欲がなくなる、いつも舌が赤く、よくパンティングしているなど)、火・木タイプの犬猫も、ぬるめがいいでしょう。

MEMO
真夏の暑い日に冷やしたおやつや氷を与えるのはまったく問題ありません。栄養ではなく、熱くなりすぎた体を冷やすことを目的に与えるためです。毎日の食事は栄養分をしっかりと消化吸収してもらうことが目的ですから、温めてあげることが大切になります。

食事の温め方

ペットフードでも手作り食でも大切なのは、電子レンジを使わないことです。高熱でせっかくの栄養成分を壊しかねません。

ペットフードの場合
  • 缶詰・半生フード:熱めのお湯を少しずつ混ぜながら、ちょうどいい温度にします。湯せんにかけてもいいでしょう。
  • ドライフード:食器を電子レンジで温め、その中にフードを入れます。数分置いて、全体が温かくなってから与えます。熱くなった食器でヤケドしないように注意しましょう。
  • フリーズドライ:水ではなくお湯で戻しましょう。
  • パウチ:湯せんにかけます。

手作り食の場合
  • 生肉・刺身:熱めのお湯を少々かけてから全体を混ぜ、ちょうどいい温度にします。または、表面だけ軽く焼いたり、湯せんにかけることもできます。
  • 調理食:お肉や魚を調理した後、祖熱が取れてから与えます。
  • 冷凍保存食:与える前日から冷蔵庫で解凍し、与える直前に熱めのお湯をかけるか、表面だけ軽く焼いたり、湯せんにかけることもできます。
  • 骨付き肉・生骨:お湯にしばらくつけるか、温かい流水にさらします。
注意
サプリメントは加熱しない方がよいものがあるため、食事を温めたあと、最後に加えます。また、生ものを室温に長時間おいておくのもやめましょう。細菌が繁殖して食中毒の原因になります。

症例紹介

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最近手作り食に切り替えたコーギー(5歳・去勢雄)

  • ずっとドッグフードだったが、犬友達に勧められて手作り食に変えた。食事はあらかじめ調理して冷凍保存しておいた肉、魚、玄米、野菜、果物が中心。冷蔵庫で解凍してそのまま与えている。
  • 手作り食に変えてから、うんちに未消化の食べ物(野菜の繊維、コーン、ブルーベリーなど)が混ざるようになった。
  • 再びドッグフードに戻すべきか悩んでいる。
  • 血液検査等の異常なし。木タイプ。
  • 指示/処方:野菜を一時やめる、消化酵素を食事に混ぜる、食事を温める。
  • 経過:うんちに未消化物が出なくなった。消化酵素を中止しても再発しない。今は少しずつ野菜の量を増やして様子を見ている。
  • 解説:冷たい食事による消化吸収不良の典型的な例。初期は血液検査に現れない。

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子宮蓄膿症のゴールデン・レトリーバー(8歳・未避妊雌)

  • 多飲、おりものを主訴に来院。開放型子宮蓄膿症と診断される。地タイプ。
  • 食事は小さい頃から肉中心の手作り食。冷凍の馬肉を購入し、冷蔵庫で解凍した後、そのまま与えている。
  • 子宮蓄膿症以外にも、肛門嚢の詰まり、外耳炎、皮膚炎、膀胱炎など多数の炎症性の症状が認められる。
  • 指示/処方:避妊手術を検討。抗生物質と炎症の抑制に効果のある漢方薬を処方し、食事を温めるよう指示。体を冷やす効果のある馬肉をやめ、体を温めるラム肉や鶏肉に変更。
  • 経過:抗生物質を3週間、漢方薬を半年ほど継続。蓄膿症が徐々に改善し、外耳炎、皮膚炎、膀胱炎も改善。現在、食事を温めて与えるようになってから2年ほど経過するがいずれの症状も再発せずに過ごしている。
  • 解説:ローフードを与えている大型犬に多い例。大型犬は食事量が多く、温めるのも大変なため、冷たいまま与えてしまう飼い主が多い。
注意
排膿しない閉鎖型蓄膿症の場合は、手術を第一に考えること。

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甲状腺機能亢進症の日本猫(15歳・避妊雌)

  • 甲状腺機能亢進症の診断を受けた。水タイプ。
  • 抗甲状腺薬による治療を続けている。最初は調子がよかったが、副作用が出たのでやめたい。慢性腎不全もあるので、手術をするべきか悩んでいる。
  • 指示/処方:甲状腺機能亢進症と慢性腎不全に効果のある漢方薬を2種類処方。定期的に血液検査を行いながら、数ヶ月かけて抗甲状腺薬を徐々に減らす。
  • 経過:現在は「温かい食事」「炭水化物を与えない」「ヨウ素含量の多い食材を避ける」食事療法のみで、漢方薬も内服薬もなしで過ごしている。2〜3ヶ月おきに血液検査を行いながら経過観察中。
  • 解説:慢性腎不全と甲状腺機能亢進症が併発している猫では、加齢による下半身の冷えに加えて、胃腸の冷えが進行している場合が多い。温かい食事は、胃腸の消化機能と全身循環を助けることで、十分な血液や栄養を腎臓に送ることができるようになる。通常は、長期の治療薬と漢方薬の併用が必要だが、この症例は食事療法だけで管理ができるようになった珍しい例。

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太り気味の長毛雑種猫(6歳・去勢雄)

  • 動物病院で肥満だといわれた。ドライタイプのキャットフードを与えているが、量を減らしても、体重管理用のフードにしても痩せない。忙しいので手作り食などの面倒なことは無理。地タイプ。
  • 血液検査等の異常はなし。
  • お腹周りに脂肪が多く、触ると冷たい。時々、便秘や下痢になる。
  • 指示:フードを温めてから与える。
  • 経過:体重が少し減り、よく走ったり遊ぶようになった。もう少し減らしたいので、現在、自然素材のキャットフードを試している。
  • 解説:避妊去勢済みの肥満猫の典型例。お腹の脂肪を触って冷たい場合は、まだ肥満初期で、食事を温めるだけで改善することがある。脂肪が熱をもってきたり、猫が暑いところを嫌うようになったら、要注意。

食事を与える際のひと手間でさまざまな病気を予防し、健康を促進することができます。皆さんの周りの飼い主の方にも是非おすすめしてくださいね。