獣医師による手作り食・自然療法ガイド

愛犬・愛猫のストレス対策にアダプトジェンを活用しよう

犬猫にも今流行のアダプトジェンを活用しよう

最近、アダプトジェンという言葉がネットでも見かけられるようになり、飼い主の方や獣医師の先生方から問い合わせを受けることが多くなっています。

アダプトジェンとは、物理的・精神的なストレスに適応し(=アダプト)、抵抗力を高めてくれる生理活性物質のことで、数種類のハーブが知られています。

今回の記事では、私たちが実際に診療で使用しているアダプトジェンについてまとめました。

アダプトジェンの作用

私たち哺乳類の体にストレスが加わると、ストレスに対して適切な対処ができるよう脳から身体にさまざまな指令が出されます。この指令系統には、主にコルチゾールなどのストレスホルモンを放出する視床下部-下垂体-副腎系、アドレナリンなどの興奮性のホルモンを分泌する交感神経副腎系、生殖機能を抑制する視床下部-下垂体-性線系、痛みの感じ方を調節する疼痛抑制系があります。

これらは、ストレスに対処できるよう体の準備態勢を整えてくれるための仕組みで、例えば、常に意識の覚醒状態を保ち、すぐに筋肉を使えるよう血糖値や呼吸数、心拍数、血圧が上昇する一方で、不必要な消化機能や痛覚が抑制されるといった身体の変化が現れます。

ストレスにうまく対処でき、ストレスの原因が取り除かれれば、脳からの指令も解除され、体はすぐに通常の状態に戻ります。しかし、ストレスが長く続くと、異常な活性化または抑制化を受け続けた組織が障害をきたし、同時に脳からの指令系も疲弊して、正常な反応を保てなくなります。その結果、心循環器系の異常、消化機能や免疫力、繁殖力の低下、自律神経系のアンバランス、自傷、沈うつなどの精神状態の異常が現れるようになります。

もしかして、みなさんの犬や猫の中にもペットホテルに預けた後に必ず病気になる子や行動問題を起こす子がいるのではないでしょうか。

アダプトジェンは、ストレスの指令系統に働き、その機能を調節することでストレスに対する適応力を高め、異常に亢進または抑制された機能を正常化し、ダメージを受けた組織の修復を助ける作用があります。また、最近では精神的なストレスにより細胞のエネルギー生産の場であるミトコンドリアの機能にも変化が現れることがわかってきていますが [1]、アダプトジェンの中にはこのミトコンドリアの機能を調節することでストレスへの抵抗力を高めてくれるものもあります。

どんな時にアダプトジェンを?

  • ペットホテルなどに預ける時、引越し、旅行など・・・あらかじめストレスが予想される場合には、ストレスが始まる前から与え始めることでストレスにうまく適応させ、ストレスによる内臓のダメージを最小限に抑えることができます。
  • 家族との死別など、家庭内での環境に変化があった時
  • 保護施設で保護中、または、新しい家に引き取られる時
  • 手術・疾患からの回復期・・・手術や病気もストレスとして考えましょう。
  • がん、腎臓病、肝臓病、心臓病、内分泌系疾患などの慢性疾患時
  • 抗がん剤治療・放射線療法などの補助または副作用の抑制に
  • アジリティなどの激しい運動や訓練を行う犬・・・疲労からの回復、運動・認知能力の向上に役立ちます。
  • 高齢・衰弱動物・・・アダプトジェンの多くは強壮作用があるため、加齢に伴い低下したさまざまな機能の再活性化を促します。

アダプトジェン作用のあるハーブ

薬学的には(1)治療用量では有害な作用をもたらさない(2)心理的、身体的、環境的ストレスに対する身体の抵抗力を高める(3)ストレスによって異常をきたした生理学的機能の正常化を促進するという3つの基本条件を満たすものがアダプトジェンとして認められており [2]、特に犬猫では次のものが安全に広く使用されています [3,4]。

アダプトジェン 作用・使用例 用量
アシュワガンダ
ウィザニア
補気運動 鎮静・認知 鎮痛 免疫  甲状腺   副腎   ストレス全般    温める
  • さまざまなストレスに対する抵抗力を高め、精神的・身体的な疲弊を抑制
  • GABA作用で心を落ち着かせる
  • 慢性疾患による体力の消耗や元気不振、ストレス緩和に。
  • 加齢に伴う筋力、記憶力の衰えに
  • 血圧を下げる
  • 抗炎症・抗酸化作用
  • 長期使用可
チンキ剤(0.5〜0.3 g/mL):体重10 kg あたり1.0〜2.5 mLを1日2〜3回に分けて与える。

乾燥粉末ハーブ:体重1kgあたり50~125 mgを1日2~3回に分けて与える。

甲状腺機能亢進症には使用しない。バルビツレート系の鎮静剤や抗不安薬の投与中はかかりつけ医に相談すること。

エゾウコギ
エレウテロ
シベリアンジンセン
補気 運動 鎮静・認知 骨髄 繁殖 免疫  
  • 視床下部・副腎に作用して疲弊・枯渇を抑制
  • 幅広い作用がある
  • 長期使用可
エゾウコギ末として体重1kgあたり25~400 mgを1日2~3回に分けて与える。妊娠中は使用しない
オタネニンジン
パナックスジンセン
朝鮮人参
高麗人参
補気 運動 鎮静・認知 骨髄 繁殖 免疫 造血  温める 潤す
  • 視床下部-下垂体-副腎系と交感神経副腎系の両方を正常化
  • 幅広い作用がある
  • 刺激・強壮作用が最も強いアダプトジェン
  • 血糖値を下げる
ニンジン末として体重1kgあたり25~300 mgを1日2~3回に分けて与える。妊娠中・高血圧・出血傾向・便秘・寄生虫症がある場合には使用しない。
キバナオウギ
アストラガルス 
補気 骨髄 免疫  鎮痛 利尿
  • 特に免疫力を強化
  • 高血圧など心循環器系の異常に
  • 強心・利尿作用
  • 化学療法・放射線療法後の副作用に
  • 長期使用可
オウギ末として体重1kgあたり50~400 mgを1日2~3回に分けて与える。妊娠中・アレルギーには使用しない。
甘草
リコリス 
潤す 鎮痛 繁殖
  • 鉱質・糖質コルチコイド作用
  • ストレス性の消化管潰瘍・胃腸炎に
  • 慢性ストレスによる痛覚過敏に
カンゾウ末として体重1kgあたり25~300 mgを1日2~3回に分けて与える。妊娠中・高血圧・低カリウム・胆汁うっ滞・肝硬変・慢性腎臓病・嘔吐・腹部膨満・副腎皮質機能亢進症には使用しない。
高濃度で長期使用しない。
チョウセンゴミシ
シサンドラ
鎮痛 運動 潤す 免疫  繁殖
  • ストレス性の下痢、頻尿など
  • 感染初期、攻撃性、イライラなどの「熱」症状のない患者に
ゴミシ末として体重1kgあたり50~400 mgを1日2~3回に分けて与える。妊娠中・発熱中は使用しない。
冬虫夏草
コルディセプス 
補気 運動 免疫  繁殖 温める 
  • ATP産生を促す(ミトコンドリアに作用)
  • 副腎皮質を刺激
  • 特に腎臓保護・抗がん効果が高い
菌糸体粉末として体重1kgあたり25~500 mgを1日2~3回に分けて与える。表証(急性感染など)がある場合には使用しない。
柴胡
ブプレウルム 
 鎮静冷ます除湿 
  • 交感神経副腎系の異常亢進に
  • 抗炎症効果が高い
  • 肝炎・胆汁うっ滞を伴う腹部膨満
  • 攻撃性、イライラなどに
サイコ末として体重1kgあたり50~400 mgを1日2~3回に分けて与える。単独で長期使用しない。
記号説明
補気=ストレス、加齢、疾患に伴う全体的な機能低下・元気消失に ►運動=運動能力を高める ►鎮静・認知=抗不安・認知能力を高める ►骨髄・造血=化学療法、放射線、慢性疾患による骨髄抑制や貧血に►鎮痛=鎮痛作用がある►繁殖=繁殖能力を高める ►免疫=免疫機能を高める ►胃・腎・腸・肺・肝・心=それぞれの臓器を正常化する ►除湿=内湿を取り除く

この他、霊芝、コドノプシス(ツルニンジン)、クコ、ロディオラなども使用します。

アダプトジェンとして使用できる漢方薬

複数のハーブを含む漢方処方を使用することで、ストレス経路だけではなく、体全体のバランスを整えることができます。

  • 逍遙散・・・精神的ストレスに。柴胡・リコリスを含む。
  • 人参栄養湯・・・慢性疾患など長期のストレスによる疲弊に。オタネニンジン・ゴミシ・リコリスを含む。
  • 六君子湯・・・慢性疾患など長期のストレスによる疲弊、悪液質に。オタネニンジンを含む。
  • 補中益気湯・・・ストレス性の胃腸炎・消化不良に。オタネニンジン・キバナオウギ・リコリス・柴胡を含む。

アダプトジェンの選び方

特定の症状が現れたり、特定の臓器がストレスを受けやすい場合は、それに対して効果のあるものを選びます。

例えば、家族の留守にお腹の調子が悪くなる子はリコリスやチョウセンゴミシを使用します。不安症が激しい子には、鎮静マークがついている精神安定効果のあるものから選びましょう。腎臓の場合はマークがある冬虫夏草がおすすめです。

特定の症状ではなく、なんとなく元気や食欲がなかったり、複数の部位に異常が現れるような場合は、作用範囲の最も広いエゾウコギやオタネニンジンがおすすめです。

アジリティなど、ストレスの多い運動や作業を行う犬の場合は、運動マークがついているエゾウコギ、オタネニンジン、冬虫夏草の中から選ぶとよいでしょう。

あらかじめストレスが予想される場合は2~3週間前から投与をはじめ、ストレスが過ぎた後も数週間ほど継続して与えます。

注意

ハーブを初めて使用する際は、必ず少量から開始し、副作用などの異常がないか様子を見ながら1~2週間おきに増量していきます。品質が信頼できるメーカーのものを選び、他のハーブが含まれていないか、また、添加物が使われていないか、必ずチェックしましょう。ハーブの使用に関連して報告されている副作用の多くは、過剰投与や品質の問題、添加物が原因です。

  1. Picard et al. Mitochondrial functions modulate neuroendocrine, metabolic, inflammatory, and transcriptional responses to acute psychological stress. PNAS. 2015 Dec 1;112(48).
  2. Winston & Maimes. Adaptogens: Herbs for Strength, Stamina, and Stress Relief. Healing Arts Press. 2007. 日本語版「アダプトゲン―ストレス「適応力」を高めるハーブと生薬」
  3. Wynn & Fougère. Veterinary Herbal Medicine. Mosby 2006.
  4. Chen & Chen. Chinese Medical Herbology and Pharmacology. Art of Medicine Press. 2004.