獣医師による手作り食・自然療法ガイド

犬や猫がときどき吐くのは正常?

愛犬や愛猫が吐くのを初めて見たときのことを覚えていますか?何か悪いもの食べたのかな、どこか調子悪いのかな、と不安になったのではないでしょうか。

でも動物病院で相談してみても、特に異常が見つからないことがよくあります。このような場合、たいていは「犬や猫が “たまに” 吐くのは普通ですから」といわれて終わりになるでしょう。実際、検査もせずにこういった回答をする獣医師や看護士は非常に多く、大学病院の内科教授レベルの獣医師が飼い主さんにそう説明している場面にも何度か遭遇したことがあります。

ここで「へ〜そうなんだ」と安心するかしないかは皆さんの選択にお任せしましょう。血液検査や画像検査で異常が見つからなければ「正常」と考え、検査に異常が現れるようになって初めて対策を考えるのが現代医学の標準だからです。

ただ、知っておいていただきたいことは、きちんと飼育管理された健康な犬や猫は、どんなに胃腸が弱くても滅多に吐くことはないということです。吐くのには必ず理由があります。

チェックリスト

月または週に数回吐いているのに、病院の検査で異常が見つからない場合は、次の項目をチェックしてみましょう。

屋外に自由に行くことができる

除草剤、殺虫剤、腐った食べ物、草、昆虫や動物など、さまざまなものを口にする機会があります。

水入れや食器を毎日洗っていない

外飼いの場合や「犬や猫は丈夫だから多少雑菌が増えても大丈夫」と考えている場合に多い原因です。

毛玉(猫)

嘔吐物に毛玉が混ざっている場合は、毎日ブラッシングを行い(EquiGroomerのような抜け毛用のブラシを使うと毛がごっそり取れます)、胃腸の中の毛玉をからめとってウンチと一緒に排出してくれる水溶性食物繊維を食事に混ぜると、嘔吐回数を劇的に減らすことができます。

猫砂

どんな猫砂を使っていますか?猫が毎日触れる猫砂は、ダストを吸入したり、足や体に付着したものを舐めることによって簡単に体内に入り込みます。飼い主の利便性だけはなく、猫にとっての安全性も考えて選ぶようにしましょう。例えば、固まる粘土タイプ(ベントナイト)の猫砂は、目やにや呼吸器症状、免疫力の低下、炎症性腸炎(嘔吐・下痢)などを起こしやすいことが知られており、紙タイプは再生時に使った漂白剤などさまざまな化学物質が残っている可能性があります。材質だけでなく、毎日排泄物を取り除いて清潔を保つことも大切です。

歯石・歯垢

歯石は、食べ物のカスだけではなく、たくさんの細菌を含んでいます。これらの細菌は毎日口の中で盛んに増殖し、LPS(リポ多糖)という毒素を産生します。細菌そのものもLPSも、消化管をはじめ、全身の臓器で炎症を起こし、悪さをしています。

早食い

噛まずに丸のみするコもよく吐くことがあります。1回の食事の量を減らして回数を増やす、早食いできない食事(大きめの骨つき肉)を与える、流動食にする、多頭飼育の場合は他の動物と別の部屋で食事を与えるなどの工夫が必要になります。

スポットオンタイプの予防薬の多用

スポットオンやスプレータイプのノミ・ダニ駆除剤の多用も原因の一つです。殺虫剤そのものよりも溶剤が原因ではないかと疑われています。必要な量と回数を守り、犬と猫の両方を飼っている場合は、猫に毒性のある犬用製品(フォートレオンなど)を使用しないようにしましょう。

洗剤・クリーナー・観葉植物

家の中の掃除に使っている洗剤やクリーナーは安全なものですか?観葉植物にも犬猫には安全ではないものがあるので再確認しましょう。特に猫は肝臓の代謝経路が私たち人間とは異なり、化学物質や毒物をうまく解毒できないことが多いので注意が必要です。

前炎症状態

上記のような衛生状態や環境問題を除くと、嘔吐のもっとも大きな原因は前炎症状態です。検査に現れない程度の低グレードの炎症が長く続き、本格的な疾患として現れる前の状態を指します。歯石や猫砂、化学物質による影響も前炎症状態といえますが、一番の原因は食事やおやつです。

  • 炭水化物原料が多く低品質のタンパク質原料を使っているペットフードやおやつ
  • 防腐剤、甘味料、増粘剤などを含むペットフードやおやつ

炭水化物(小麦、米などの穀類、じゃがいもなど)や植物由来のタンパク質(豆類)は、もともと肉食動物だった犬猫の消化器系の負担になりやすいだけでなく、胃腸の炎症を起こしやすいグルテンレクチンなどの物質を豊富に含んでいます。また、これらの材料を精製加工して消化しやすくしている場合は、食後の血糖値の急激な上昇からインスリン抵抗性・肥満そして炎症の悪循環を引き起こし、やはり慢性的な嘔吐を示すようになります。食用に適さない由来不明のくず肉に含まれる化学物質、防腐剤などの添加物、加工や貯蔵の過程で生じる有害な副産物も体に直接作用して炎症を起こしているかもしれません。

こういった毎日のように口にする食物による炎症は、初期はごく軽度の嘔吐として現れることが多く、時間とともに蓄積して次のようにさまざまな病気にいたります。

  • 分泌物の増加による外耳炎、目やに、肛門嚢の詰まり
  • 甲状腺、副腎などの内分泌系の疾患(ホルモンの異常)
  • 肥満、糖尿病などの代謝性疾患
  • 慢性炎症による腎臓や肝臓の機能低下
  • 膀胱炎、関節炎などの慢性炎症性疾患や変性性疾患
発症までに時間がかかるため、食事と結びつけて考える獣医師はほとんどいなく、下手をするとさらに低品質の原料を使った療法食を処方されることがあります。

このような場合は、穀類や豆類の使用を最小限にし高品質のタンパク質原料(由来がわかっている本物の肉や魚)を使ったペットフードや手作り食に切り替える必要があります。

軽度の食物アレルギーや過敏症、腸疾患、消化酵素分泌不全

人間用の高品質な食材を使った手作り食やペットフードを与えていても、なんらかの胃腸障害、食物に対するアレルギーや過敏症、不耐性がある場合は嘔吐が起こります。重度の場合は症状が激しく、血液検査や内視鏡検査でも異常が見つかるため診断を受けやすいのですが、問題は “たまに吐く” 程度の軽度の場合。今まで使ったことのないまったく新しい食材を与える、消化酵素を食事に混ぜる、胃腸機能を促進する漢方薬(補中益気湯、六君子湯など)を使って見るといった方法で、嘔吐がなくなるかどうかを確認する必要があります。

また、ペット用のおやつやサプリメントに使われることが多い牛乳や乳製品も、成長した犬や猫は乳糖をうまく分解することができないため嘔吐の原因になります。

肝臓や膵臓、腎泌尿器系、甲状腺、副腎などの疾患でも吐くことがありますが、血液検査や尿検査の方が早く変化を示すことがほとんどです。定期的な検査を行い、症状が現れるまえに対策をとりましょう。


ごく軽度の嘔吐でも、長期化すると慢性的な栄養不足や炎症によって体力が消耗していきます。近くに漢方や鍼灸の専門病院があれば、嘔吐物の内容や性状、嘔吐の時間やタイミング、舌診、脈診などである程度の診断ができるので相談するのがおすすめです。