獣医師によるペットの自然食・自然療法ガイド

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症例紹介 | 漢方薬が効かない理由

2017/06/28

漢方、使ってみたけど効かなかったんです。 . . . 飼い主さんや一般の獣医師の方々と話しているとよく耳にする言葉です。

そこで、どのような漢方薬をどのような病気や症状に使ったのか詳しく聞いていくと、多くの場合に共通して見えてくるのは「病名しか考えていない」ということです。患部以外の症状や体質など、犬猫の全身状態を把握しないで「この病気にはこの漢方が効くと聞いたから」といって使用しているのです。

実は、私も漢方薬に興味を持ち始めた十数年前はそうでした。漢方薬に含まれている生薬の薬理作用(抗炎症作用や抗がん作用、抗菌作用など、実験で証明されている作用のこと)に基づいて処方を行なっていました。でも同じ病気でも明らかに効果がある症例とない症例があるため、薬理作用だけではない何かが働いていることを実感し、漢方学の考え方を一から学びはじめたのです。

今回は、病名だけで漢方薬を処方し病気を悪化させてしまった典型的な症例を紹介するとともに、漢方学の知識がなくても漢方薬をある程度正確に選べるようになる基本の考え方について説明します。

症例プロファイル

名前:ジェイミ
品種:スコティッシュテリア
年齢:4歳
性別:未避妊雌
体質:木タイプ

経過

  • 6ヶ月齢

飼い主の元に引き取られる。この時すでにかゆがっていた。

  • 1歳

かゆみが悪化し、腹部に脱毛が見られるようになった。
目やにが多く耳もいつも臭くてジュクジュクしている。
近くの動物病院でノミ・ダニ駆除を行うが効果なし。
アトピー性皮膚炎を疑い、処方食(ヒルズd/d)、薬浴(サルファサリチル酸)、プレドニゾロン(ステロイド剤)、ビタミン剤(ビタミンA・E)などによる治療が行われるが、やはり症状はおさまらない。

  • 1歳6ヶ月

別の病院に転院。
口の周囲、足先、両耳、左右腹部、臀部に重度の発赤かゆみ脱毛
かゆみがあまりにひどく、毛を噛みちぎり皮膚をかきむしる
血液の混ざった滲出液が見られる。
血液検査は特に異常なし。副腎機能も正常範囲。
ここでもやはりアトピー性皮膚炎が疑われる。
セレスタミン(抗ヒスタミン薬とステロイドの合剤)を処方。
二次感染を治療する抗生物質も開始し、薬浴剤をクロルヘキシジン(消毒薬)に変更。
やや症状が改善する。

  • 1歳9ヶ月

ステロイドの副作用のためALP(肝酵素)コレステロールが上昇。
セレスタミンの減量を試みたが、症状が悪化。
セレスタミンをプレドニゾロン(ステロイド剤)に切り替える。
人のアレルギーに効果があると聞いた小青竜湯を処方。

  • 2歳

ALPコレステロールに加え、ALT(肝酵素)も大幅に上昇。
プレドニゾロンを減量すると症状が悪化。
小青竜湯を中止、人のアトピー性皮膚炎の治療に用いられる十味敗毒湯に変更
オメガダーム(オメガ3・6脂肪酸サプリメント)を開始。

  • 3歳

その後も脱毛やかゆみの悪化と改善が続いたため、
セレスタミンとプレドニゾロンの切り替えを繰り返す。
ALT、ALPは依然高いまま。コレステロールは正常値に戻る。
アトピカ(シクロスポリン)で良好な反応が見られたため、他の薬剤を徐々に減らす。
漢方薬は使用中止。

  • 4歳

シクロスポリンとステロイドを少しずつ減量していたところ、突然かゆみと脱毛が再発。
シクロスポリンの量を戻しても抑えることができなくなった。

ここで当サイトの獣医師の元に回されてくる

所見

  • 口唇周囲、耳、手足の先、わき腹に左右対称性の脱毛、かゆみ、色素沈着。非季節性。
  • 一部は激しいかゆみのため、かきむしって出血
  • その他の病変部は赤〜暗紫色で、を持っている。一部は菲薄化、乾燥
  • 手足の先が冷たい
  • キレやすく、飼い主に噛み付こうとすることがある
  • パンティング
  • 落ち着いて眠れない
  • 水をたくさん飲む
  • 舌の色:濃い赤色
  • 脈:細脈

診断:血熱

処方:清営湯(清営顆粒)

経過

  • シクロスポリン・ステロイド・脂肪酸サプリメントを継続したまま清営湯を開始(100 mg/kg・1日2回)
  • 2週間ほどでかゆみが徐々におさまってきたため、清営湯を増量しさらに2週間継続
  • 患部の熱感・乾燥がおさまり、毛が薄く生えてくる
  • 目ヤニ、唾液量が増える
  • イライラしなくなり、よく眠るようになる(眠りすぎ?)
  • 暑がり飲水量は変わらない。体重増加
  • 3週間かけて清営湯を三仁湯に徐々に切り替え。
  • 暑がる症状がなくなったところで胃苓湯に切り替え。この頃にはかゆみはほとんどなくなる。
  • 胃苓湯を増量しながら、シクロスポリン・ステロイドを徐々に減量。
  • 治療開始から半年後には胃苓湯・脂肪酸サプリメントのみで症状が再発しなくなる。肝酵素値正常化。
  • その後、漢方薬から食事療法に切り替えて維持。

解説

漢方薬は疾患に対して効果を示すのではなく、病気の原因となっている身体のバランスの不均衡を修復することで効果を発揮します。つまり、同じ病気でも患者よって異なる漢方薬が処方されることはごく普通のことですし、逆にいうと、まったく異なる病気に同じ漢方薬が効果を示すこともよくあります。

さて、ここで上の経過で示した①②③の意味を下の図で見ていきましょう。犬猫の皮膚病の場合、大きく分けると乾燥タイプ湿潤タイプの2つのパターンで「身体のアンバランス状態」が進行していきます。今回の症例の場合、1歳頃から目や耳がジュクジュクしており、図右側の湿潤タイプだったと推測することができます。

皮膚炎の進行

このタイプは生まれつきの体質や合わない食事などの何らかの理由で身体の中に湿邪がたまり 、それが全身の循環を妨げることで身体の中に熱がこもるようになり 、やがて血液が熱をもつ激しい炎症状態 ③ に至ります。

乾燥状態から始まるタイプやステロイド・抗生物質の長期投与を行なっている場合も、進行の過程は異なりますが、やがてはこの血熱の状態に至ります。

今回の症例の場合は、1歳半で別の病院に移った頃には激しいかゆみがあり、すでにの状態まで進行していました。転院先で処方されたステロイドやシクロスポリン、抗生物質の効果で にやや逆戻りし、 との間を行ったり来たりしていたようです。

しかし、この状態にある時に処方された漢方薬の小青竜湯は本来ならば ① の段階で冷えのある症例に使用されるもので、体を温める効果があるため熱症状をさらに悪化させます。ステロイドは漢方医学的にいうと冷やして潤す効果があるため、その効果を逆に半減させたのではないかと思われます。また、十味敗毒湯は、② に使用されることもありますが、主に乾燥タイプで中等度の炎症に使用されるものです。ちなみに小青竜湯にはエフェドリンを含む麻黄が使用されているため、別の意味でも使用に注意が必要です。

最終的にこの症例では ③ の状態に合う漢方薬を処方したところ(この場合は清営顆粒)、血熱の症状が改善され、② の段階に戻りました。そこで今度は ② の段階にあう漢方薬(三仁湯)に徐々に切り替えていき、さらににあう漢方薬(胃苓湯)への切り替えを経て、ステロイドやシクロスポリンの減量に成功、薬なしでも症状を抑えることができるようになりました。半年以上の時間を必要としましたが、漢方薬や薬剤に良好な反応を示した場合、このように病期が逆戻りしていくことはよく見られる現象です。

正しい漢方薬を選ぶために

このように、副作用はあまりないとされる漢方薬も間違った選び方をすると、病気を悪化させたり、併用薬の効果を低下させることがあるので十分な注意が必要です。

といっても、それほど難しく考える必要はありません。そもそも漢方薬は毎日の生活の中のちょっとした不調にも気軽に取り入れていけることが利点ですから、コツさえ覚えておけばとても役に立つ味方になってくれるはずです。

そのもっとも基本的な方法として、患部や全身が(1)乾燥と湿潤のいずれの状態(またはその中間)にあるか(2)寒と熱のいずれの状態(またはその中間)にあるかを考えます。漢方薬の添付文書には寒熱または湿乾のいずれにあうものかが必ず記載されているので、この基本症状をもとに、処方された漢方薬が本当にあうかどうかを判定したり、たくさんある漢方薬の中から使えるものをある程度絞り込んでいくことが可能です。

寒熱湿乾
乾燥症状
  • 皮膚や被毛、眼、舌が乾燥
  • 粉のようなフケ
  • 若白髪が多い
  • 脱毛
  • ウンチの水分が少ない(硬い)

・・・など

湿潤症状
  • 患部がジュクジュク
  • 皮膚が脂っぽい
  • 耳や皮膚が臭い
  • 唾液や分泌物が多い
  • 大きめのフケ
  • ウンチに粘液がついていることがある
  • 吐いたものが粘っこい
  • いびきをかく
  • 肛門腺が詰まりやすい

・・・など

熱症状
  • 暑がり
  • 涼しいところが好き
  • パンティング
  • 患部が赤く熱を持っている
  • 暑い日に元気がなくなる・症状が重くなる
  • 短気・攻撃的・不安症
  • 夢をよく見る

・・・など

寒症状
  • 寒がり
  • 日の当たる場所が好き
  • 寒い日に元気がなくなる・症状が重くなる
  • 患部や手足耳の先が冷たい
  • 怖がり

・・・など

添付文書の副作用情報や添加物情報を必ず読み、自分の愛犬や愛猫に該当するものがないか確認することも重要です。

ただし、今回の症例のように病期の進行や逆行がいつもはっきりとしているとは限りません。疾患が慢性化したり複雑化した場合は、症状を単純に区別することが難しくなります。そういう時こそ、漢方学や自然医学の専門資格を持った獣医師が必要になる時です。寒熱・乾湿だけでなく、舌診や脈診、病歴などで虚実や気血の状態を判定し、その他のさまざまな病態や要因を考えて診断をしてくれるでしょう。

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