獣医師による手作り食・自然療法ガイド

食べ過ぎ注意!犬における食事性の尿失禁

鯖を食べ過ぎてしまったワンちゃんの話。

今回ご紹介する症例は、とても活発なラブラドールのサリーちゃん(3歳・避妊メス)。原因不明の尿失禁が続いており、何かよい漢方薬がないかとかかりつけの獣医さんより紹介を受けました。

症例プロフィール

  • 品種:ラブラドール・レトリバー
  • 年齢:3歳
  • 性別:避妊雌
  • 体質:木タイプ
  • 病歴:特になし

かかりつけの獣医さんでは、

  • 血液検査
  • 尿検査・培養
  • レントゲン検査
  • 神経学的検査

…等の検査を行いましたが、すべて異常なし。念のため抗生物質を投与しても効果はありませんでした。1歳の時に避妊手術を行っていたため、尿道括約筋機能不全を疑い、フェニルプロパノールアミンとエストロゲン製剤をしたところ、やや改善した(ような気がする) とのことでした。

さて、実際にサリーちゃんと会ったところ、猪突猛進、典型的な「木」タイプの元気な女の子。排尿時のいきみや疼痛、おしっこをしたくてソワソワする様子はなく、知らない間に尿が漏れているというのが唯一の症状です。

食欲、毛艶、体格など、全身状態は非常によく、脈も良好。しいていえば舌の中央部がやや青みがかっている程度の異常しか認められず、尿失禁を起こすような証候はありません。

ところが、話題が食事の内容に移ったところ、すぐに原因が明らかに。ほぼ毎日、主食に「サバ」が使われていたのです。

「サバは健康にいいと聞いたので」と、飼い主さん。テレビでサバの健康効果の特集を見てから約半年、毎日欠かさずサバを与えていたそうです。

確かに、サバはオメガ3脂肪酸が豊富に含まれており、私たちもよくおすすめする健康食材です。しかし、まれにですが、犬で尿失禁を起こすことがあるという話も聞いています。

確かな理由はまだ明らかになっていませんが、サバに比較的多く含まれる血管作動性アミンの作用が疑われています。血管作動性アミンは平滑筋に作用したり、神経伝達物質としても働くため、膀胱や尿道、血管の平滑筋や神経系を介して排尿コントロール機能に影響をする可能性は十分に考えられます。

血管作動性アミンは、さまざまな食材に含まれており、ヒスタミン、セロトニン、フェニルエチルアミン、チラミンなどがこの仲間です。通常の食事では特に問題になることはありませんが、血管作動性アミンの代謝が低下している人では、偏頭痛や蕁麻疹、かゆみ、鼻水、不整脈、嘔吐、下痢、血圧の変動などアレルギー様の症状が生じることも知られています。

血管作動性アミンが多く含まれる食品
  • マグロ、サバ、イワシ、カツオ
  • チーズ
  • 味噌などの発酵大豆食品
  • ソーセージ、ハム、サラミ、ベーコンなどの豚肉加工品
  • ピーナッツ
  • オレンジ、バナナ、パイナップル、イチゴ

さて、サリーちゃんのその後ですが、これらの食品を避けることで尿失禁が認められなくなりました。現在は、週1~2回程度に限定してサバやイワシを食べていますが、再発せずに過ごしています。

血管作動性アミンのうち、チラミンはかかりつけの獣医さんで投与していたフェニルプロパノールアミンと同じような作用があるため、サバのどの成分が尿失禁の原因なのかは不明です。

ただ、今回の症例は、どんなによい食材でも偏った使用は健康を損なう可能性があるということを教えてくれています。ここに挙げられているマグロやサバなどの魚はDHAEPAなどの抗炎症効果が高い良質な脂肪酸が含まれていますが、同時に水銀など有毒な重金属の濃度も高いことがわかっています。また、猫ではこれらの脂肪分の高い魚を常食することで生じる汎脂肪織炎という病気が知られています。

これらの魚を主食として与える場合は週2~3回を限度とし、白身魚やいろいろな種類の肉もまんべんなく取り入れるようにしましょう(週替わりでメニューを変えている場合は次の週には別の魚や肉にするといいでしょう)。

  • 膀胱炎・尿路感染症
  • 先天性・後天性尿道括約筋機能不全
  • 異所性尿管などの解剖学的異常
  • 排尿筋異常
  • ストレス、不安症など
  • 腎気虚・腎陽虚の場合(高齢に多い):八味地黄丸、右帰丸、六味地黄丸、補中益気湯など
  • 湿熱(しぶりや尿意逼迫が見られることが多い):四妙散、三仁湯、龍胆瀉肝湯など
  • 脾氣陷:補中益気湯など
  • 心腎不交(ホルモン反応性、睡眠中の尿失禁はこれに該当することが多い):小柴胡湯、桑螵蛸散、縮泉丸など